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自動車データ流出を危惧する中国 地理情報を敵国に握られる恐怖=山崎文明
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北京冬期五輪で中国政府が配布した五輪公式のスマートフォンアプリが各国から批判を浴びた。政府はアプリを通じて各国選手団に健康状態の申告を義務づけたが、アプリに個人データ漏えいのリスクが発覚したためだ。
安全保障の分野では、中国が国軍である人民解放軍にサイバー部隊を整備して「情報戦争」を繰り広げていることは周知の事実だ。また、民間のハッカーグループも多数存在し、世界に対してサイバー攻撃をしかけているといわれる。したがって、今回の五輪で、「中国のアプリを個人の端末にインストールするな」といった警告が出るのは当然ともいえる。
一方で、データの有用性を知っている中国だからこそ、自国内に対しては、データ流出を防ぐ取り組みを徹底させている。その一つが、自動車から取得できる多種多様なデータの保護である。
中国政府は昨年3月に米テスラ社製自動車の軍施設や軍関係者の居住地への乗り入れを禁止した。GPS(全地球測位システム)情報によるヒートマップ(データの可視化)の作成や車載カメラの撮影情報など、自動車データが収集され地理情報や軍事機密が暴露されることを警戒しての措置と見られる。
配車アプリも禁止
中国では、測量法で個人が測量や地図を作成することは非合法となっており、国が管理するものとされている。日本人が空港や水道施設、高速道路の写真を撮影しただけで、スパイ容疑で逮捕されるケースもある。中国では、地理情報が軍事機密情報として扱われているためだ。
自動車には、高度運転支援システム、それを進化させた自動運転のために、さまざまなセンサーが搭載されており、走行中に道路や周辺の建物などあらゆる地理情報を吸い上げる。自動車は「走る測量機」ともいえる。そのデータを基に地図を作り、精度を上げていくことができる。
正確な地理情報は、安全保障上、最も重要なデータになる。災害時に緊急避難区域や病院がどこにあるかを把握しておくことは、迅速な救助活動に必須である。一方で、これが他国に把握されてしまうと、交通経路や重要施設の位置情報が丸裸になってしまい、国防の面で脅威となる。
いまや高性能センサーと化した自動車の「実態」を懸念した中国は、自動車にまつわるデータの取り扱いに関する包括的な法律「自動車データ安全管理に関する若干の規定」(自動車データ管理法)を成立させ、昨年10月から施行した。自動車メーカー、部品およびソフトウエアのサプライヤー、販売代理店、修理工場、配車サービス企業など、自動車産業に関連する全ての人を対象に、自動車の重要データの適切な取り扱いを義務付ける法律だ。
この法律が定義する重要データとは、「改ざん、破壊、漏えいまたは不正取得、不正利用がなされると、国家安全、公共利益または個人・組織の適法な権益に損害を与える恐れのあるデータ」である。
例示として、最初に「軍事管理区域、国防科学工業に係る機関、県レベル以上の党および政府機関等の重要・機微なエリアでの地理情報、人流情報、車両流量情報などのデータ」が挙げられている。
さらに細分化した例示として、「車両流量、運送情報など経済進行状況を反映する…
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週刊エコノミスト
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