経済・企業 仮想空間
メタバースを理解して無法地帯にしない方法=山岡浩巳
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「メタバース(仮想空間)」と「Web3」という言葉は昨年、フェイスブックが社名を「メタ」に変更したこともあり、急速にバズワード化した(図1)。
「メタバース」やこれと結びついたインターネット環境を指す「Web3」には賛否両論がある。片や、仮想空間上に新たなつながりや経済圏を広げ、経済成長の源にもなると説く人々がいる。その一方で、デジタル資産を売るための、あるいは新たなバブルを狙った宣伝文句との冷めた見方もある。
例えば、米テスラ社の創業者イーロン・マスク氏は「Web3」について、「マーケティング用の流行(はや)り言葉に見える(“seems more marketing buzzword than reality”)」と評している。
このように、メタバースやWeb3への見方が収斂(しゅうれん)しない背景としては、これらの言葉の定義が必ずしも明確でなく、人によって異なる文脈で使われていることが挙げられる。
さらに、「ブロックチェーン」や「NFT(非代替性トークン)」などの技術用語が、内容が不明瞭なままイメージ戦略的な宣伝に使われがちであることも、メタバースの「わかりにくさ」に拍車をかけている。
ネットゲームとどう違う
すでに「あつまれどうぶつの森」のようなゲームやVR(仮想現実)を楽しめる機器は普及し、バーチャル空間で自分のアバターを作ってプレーすることは、今や幼児でも可能になっている。
この中で、メタバースが従来のネットゲームやVRを超える価値をもたらすとの見解が依拠するのが、ブロックチェーンなどの「分散型技術」である。中には、分散型技術を使うことで、GAFAのような「ビッグテック(巨大テック企業)」に支配されない「分散型の世界」ができるといった主張もある。
しかし、分散型技術は、力の平等まで自動的に実現してくれるものではない。例えばビットコインでは、多くの「計算力」を占めた主体が合意形成に強い力を持つ。実際、ビットコインの「ハードフォーク」などの制度変更は、ほとんどの参加者が関わることのないまま行われている。
また、使われるブロックチェーン技術が完全に分散型とは限らない。ビットコインの後に登場したブロックチェーンの多くは、取引の認証にかかる時間やエネルギーなどの制約の中、分散と中央集権の折衷型として作られている。この中で、有力メンバーがやはり何らかの形で選ばれている。したがって、「メタバースには従来とは違う分散型技術が使われる」とは言い切れない。
より大きな問題として、分散型の技術を採用したからといって、それで世界が分散的になるわけではなく、ガバナンス(統治)の問題などは別途考えなければならない。そもそもインターネットも、「単独の管理者がいない」という意味では分散型ともいえるが、GAFAはその中で巨大化したのである。
国際的な金融フォーラムである国際決済銀行(BIS)も、昨年12月の報告書の中で、ブロックチェーンを用いる「分散型金融(DeFi)」に関し、「分散化の幻想(Decentralization Illusion)」の問題を取り上げている。この中では、ブロックチェーンの合意形成そのものの中で力の集中が起こりやすいこと、そしてガバナンスの面からも中央集権化の力が働きやすいことが指摘されている。
違法コピーの事例
また、メタバースが新たな価値をもたらす…
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週刊エコノミスト
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