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《最新特集》欧州中のパイプラインが天然ガスから再エネ水素に変わる 欧州のしたたかな水素戦略=丸田 昭輝
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欧州 再エネ使った水素を全域で パイプラインはアフリカにも=丸田昭輝
<第2部 エネルギー革命の最前線>
ウクライナ情勢の影響で不透明感が強まっている欧州だが、エネルギー領域で2030年を見通すならば、現在の脱炭素化の方針も受けて、確実に脱天然ガスの流れは進み、同時に欧州全域をカバーする水素網の構築が進むであろう。
最近の水素に関わる世界の動きを俯瞰(ふかん)すると、30年に向かって欧州がグリーン水素(再生可能エネルギー由来電力で水電解し製造する水素=再エネ水素)で主導権を取りつつあることが見えてくる。
各国で供給確保策
21年11月に英国で開催された国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)では、ジョンソン英首相主催で世界リーダーズサミットが開催され、30年に向かって推進すべき四つのクリーン技術「ブレークスルーアジェンダ」が定められた。電力、道路輸送、鉄鋼、そして水素である(表1)。
従来、水素の使途としては燃料電池自動車(FCV)が主たるターゲット市場であった。しかし、近年は船舶燃料、製鉄、水素・アンモニア発電と、脱炭素化が困難なあらゆる分野への適用が有力視されるようになった。これが世界が水素を必要としている理由であり、各国が水素の製造と供給確保に乗り出している。
日本では、菅義偉政権が策定したグリーン成長戦略で30年の国内水素需要を300万トン、うち新規需要は100万トンとしている。現実的なところでは、川崎重工業を中心とした企業連合が、豪州でCCS(二酸化炭素〈CO2〉の回収・貯留)で製造時の温室効果ガスを実質ゼロに近づける「ブルー水素」を製造し、30年には約22万トン程度を供給する見込みである。他の企業もアジアや中東からのブルー水素やグリーン水素の調達を目指している。他の企業連合では海外産のグリーン水素の輸入を目指す動きもあるが、国内再エネの潜在的な成長性が低い日本では国産グリーン水素の拡大の可能性はまだ低い。
グリーン水素で主導権を握りつつある欧州も、実は多様である。明確にグリーン水素のみを志向しているのは、ドイツ、スペイン、ポルトガルで、これらの国が再エネ導入を拡大しているということが背景にある。
他の国はどうか。北海ガス田を有する英国とオランダは「グリーン&ブルー」であるし、再エネ展開が遅れているイタリアも「グリーン&ブルー」である。原子力発電への回帰が強まっているフランスでは「グリーン&ピンク」だ。ピンクとは、原発由来電力を使って水を電解し製造した水素のことである。
欧州以外では、30年に国内水素市場を日本以上の390万トン(現状22万トン)へ拡大することを目指す韓国は「グリーン&ブルー」を狙っており、2月15日にバイデン大統領が水素分野への95億ドル(約1兆円)投資を発表した米国は「グリーン&ブルー&ピンク」である。再エネが豊かで水素を新しい輸出資源としたいチリ、アルゼンチン、アフリカ諸国は基本的に「グリーン」である。
このように各国は、自国が活用できる資源や資産を活用して、低炭素水素の製造や調達に動いている。ただし、カラーバ…
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週刊エコノミスト
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