経済・企業 世界戦時経済
《戦時経済》【ウクライナ侵攻】ロシアのSWIFT排除で中国迂回の決済も困難=蔵納淳一
有料記事
SWIFT排除 対ロシア決済に影響甚大 中国経由も事実上は困難=蔵納淳一
ロシアによるウクライナ侵攻に対し、日米欧などの主要国によるロシアに対するさまざまな金融制裁が発動されている。3月上旬時点では、国際銀行間通信協会(SWIFT=Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication)から、ロシアの大手や中堅の7行を排除することになった。その影響の大きさや代替の決済手段の可能性について考えてみたい。
EU(欧州連合)理事会は3月2日、ロシアのバンク・オトクリティエ、ノビコムバンク、プロムスビャジバンク、バンク・ロシア、ソブコムバンク、開発対外経済銀行(VEB)、VTBバンクの7行をSWIFTから排除すると発表した。SWIFTは国境をまたぐクロスボーダー決済の最も重要なインフラであり、ロシアの貿易取引などの決済に大きな影響が及ぶことは避けられない。
そもそもSWIFTとは、金融機関の国際的な決済ネットワークとして、1973年にベルギーで設立された共同組合である。現在では200以上の国・地域から1万1000以上の銀行、証券会社といった金融機関などが参加し、1日当たりの取引件数は4200万件を超える。ただ、SWIFTは資金や口座の管理は行わず、あくまでも加盟する金融機関同士の決済関連メッセージを交換するプラットフォームにすぎない。
それでも、SWIFTはその決済関連メッセージに高い信用を与え、そのメッセージに基づいて決済銀行や他の決済システムの口座間で振替をして資金を清算する。SWIFTを介さずに決済するには、物理的には金融機関同士のファクスやメールなどによるやり取りも考えられるが、本当にその金融機関からのメッセージなのかを常に疑わざるをえず、手作業による大量の送金処理では事務ミスのリスクも格段に増えてしまう。
3月上旬時点ではロシア最大のズベルバンクや、国営ガス大手ガスプロム傘下のガスプロムバンクが対象外となっており、欧州がロシア産天然ガスの輸入に依存していることなどに配慮したと思われる。他方、米国は独自の制裁措置として、ズベルバンクを含む大手5行の米ドル取引停止を決めた。資産ベースでロシア国内の約6割を占める大手5行の米ドル建て取引の停止は、ロシア経済に大きな影響を及ぼすだろう。
イランは貿易3割喪失
SWIFTによると、今年1月のSWIFTにおける決済通貨は、米ドルが40%、ユーロが36%と計7割以上を占める。また、国際金融協会(IIF)のリポートによると、2021年のロシアの貿易決済におけるドルのシェアは55%、ユーロのシェアは30%に上っており(ルーブルは10%程度)、仮にSWIFTの制裁対象がズベルバンクを含む300を超えるロシア金融機関に広がることになれば、さらに打撃は大きくなろう。
スイスのチューリヒ大学東欧研究センターのマリア・シャギーナ博士が昨年発表した論文によると、12年にイランの銀行が制裁によってSWIFTから排除された際、イランの石油輸出収入の5割、貿易取引の3割を失ったとし、ロシアのアレクセイ・クドリン元財務相は14年、このような動きがロシアのGDP(国内総生産)を5%縮小させる可能性があると予測している。
ロシアは14年のクリミア半島併合の際、欧米によるSWIF…
残り1507文字(全文2907文字)
週刊エコノミスト
週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める