週刊エコノミスト Online 戦時日本経済
《戦時日本経済》結果的にMMT?インフレを政府・日銀は回避できるか=櫨浩一
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MMT インフレ回避の「安全装置」か 無意味な「過去の遺物」か=櫨浩一
現在、主流である経済学(主流派経済学)は財政の健全性維持を重視する。一方、現代貨幣理論(MMT)は「自国通貨を発行できる政府は財政破綻することはなく、インフレも制御できる」と紹介されることが多く、財政赤字を積極的に利用して失業をなくすなど経済を安定化させることを優先する。
1970年代の石油危機のインフレや、その後のスタグフレーション(インフレと景気後退の同時進行)のため、主流派経済学は金融政策を重用し、財政政策の発動は、深刻な不況に限定するべきだとなった。
日本は財政政策が積極的に利用され続けたが、90年初頭のバブル崩壊後に政府債務が大幅に増加したため、財政政策には慎重となり金融政策への傾斜を強めた。2013年から日銀の黒田東彦総裁の異次元金融緩和が実施されたにもかかわらず、経済不振が続いている。さらに、米国の08年のリーマン・ショックと10年の欧州債務危機を経て金融政策への過度な依存や緊縮財政の弊害が指摘され、主流派経済学でも財政政策の必要性を指摘する意見がみられるようになった。
こうした中で、早くからMMTは財政赤字を伴う財政政策を主張していた理論として注目されている。
MMTは多くの点で、これまでの常識とは大きく異なる。財政破綻することはないというMMTの主張は、主流派経済学とは前提が異なることが原因だ。真の問題は、激しいインフレを回避できるかどうかという点にある。
政府と日銀の関係
両者の違いを単純化して比較した(表)。
主流派経済学は主要国の現在の制度を前提とし、政府と中央銀行は別組織で、それぞれ独立して政策を実行するとされる。政府が新規に発行する国債を中央銀行が購入することも禁止されている。政府は中央銀行に保有している預金額以上には支出できず、民間の金融機関や消費者、企業に国債を売って資金調達する必要がある。このため、資金調達に失敗して元利の支払いができないということも起こり得る。
一方、MMTは政府と中央銀行は完全に協調して政策を実行するとして考察し、一体として扱う。例えば、政府が国債の利子の支払いや償還をする際、常に中央銀行から必要なだけ借り入れることができるので支払いに支障が出ることはない。「日本は既にMMTを実践している」とも言われるが、政府も日銀もこの理論に基づいて政策実行しているわけではない。
しかし、結果的にMMTで提唱しているような姿になっていることは事実だ。政府が発行した国債や財投債などの残高は、増加を続けている。日銀が保有する国債などの残高は13年のアベノミクス開始以降、急速に増加した(図1)。財政赤字が続いているにもかかわらず、日銀保有分以外の国債などの残高は12年度をピークに減少している。政府と日銀を統合すると、MMTがいうように国債を発行せずに財政赤…
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