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《戦時日本経済》「ミスター検討中」岸田首相の内外政策は党内主導権争い投影=与良正男
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政局 経済政策も日銀総裁人事も 岸田首相は「ミスター検討中」=与良正男
「ミスター検討中」──。岸田文雄首相を指して、政界で最近、こんな呼び方が定着しつつある。国会で何を質問されても「検討している」「あらゆる選択肢を排除しない」の一点張りで、自らの考えを明確にしようとしない岸田首相を皮肉る呼び名である。
昨秋の首相就任から、もう5カ月余。今年1月に始まった通常国会は無風に近く、政府の新年度予算案も異例のスピードで衆院を通過して、早々と成立する運びとなった。しかも、衆院の採決で国民民主党も予算案に賛成するなど、野党の方から政権にすり寄ってくる。政治状況を見れば「岸田1強」とさえ言っていい。
にもかかわらず、自民党内でも「首相が何をしたいのか分からない」から、果ては「実は何も考えていないのではないか」まで酷評が渦巻き、「決断が早かっただけ菅義偉前首相の方がましだった」との声まで与野党から出始めている。これは相当深刻である。
世論も敏感だ。『毎日新聞』の全国世論調査(2月19日)によれば、岸田内閣の支持率は45%で、1月調査から7ポイント下落した。政権発足後最低の数字で、逆に不支持率は46%と前回から10ポイントも増加している。下落の要因は「先手、先手」と言いながら後手に回っている新型コロナウイルス対応への不満だけではない。『朝日新聞』の2月調査で、岸田首相の経済政策に「期待できない」と答えた人は55%に上り、「期待できる」は32%にとどまっている。
ロシアのウクライナ侵攻で、ガソリン代をはじめ、物価の上昇は当面続くと予想され、国民の不満はさらに強まると思われる。ガソリン高騰を抑えるため、1リットル当たり5円としている補助金の上限を最大25円に引き上げる方針を、首相自らが記者会見で明らかにしたのは、そんな危機感の表れだろう。ただし、これも「対応が遅い」との評価が大半で支持率回復には至っていない。
具体策ない「資本主義」
「検討中」→「何をしたいのか分からない」の最たるものが、看板政策として掲げてきた「新しい資本主義」である。
通常国会冒頭の施政方針演説で、首相は「新しい資本主義」によって「世界の動きを主導していく」とまで意気込んだ。だが、その後も首相は「格差問題をしっかり考え、次の成長につなげる」「気候変動対策を成長のエンジンにする」等々と繰り返すだけで、そのための具体策は一向に見えない。
1月の衆院本会議で、こんなやり取りがあった。立憲民主党の小川淳也政調会長が「そもそも『成長』と『持続可能性』は両立する概念なのか」と本質的な疑問を投げかけた場面である。岸田首相が持論を展開するには絶好の機会だったはずだ。
ところが首相は「今春にグランドデザインと実行計画をまとめたい」とかわすだけだった。そして、今も「検討中」が続くのだ。
結局、首相の言いたいのは「アベノミクスの持続的…
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