経済・企業 戦時日本経済
《戦時日本経済》黒田日銀総裁の罪と罰=加藤出
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日銀1 黒田総裁の罪と罰 ゾンビ企業 円安、インフレ、財政規律麻痺=加藤出
日本銀行の異次元緩和策は、間もなく10年目に入る。同政策開始時の黒田東彦総裁は、日本経済停滞の主因は、日銀が思い切った金融緩和を実施してこなかったことで生じたデフレにあると見ていた。
そこで、2年で2%のインフレ目標を達成するという強いコミットメント(約束)を示し、同時に長期国債の大規模購入などによりマネタリーベース(日銀当座預金+現金)を2年で2倍(270兆円程度)に拡大すれば、インフレ予想および実際のインフレは上昇し、日本経済も復活すると彼は信じていた。
しかし、その考えには決定的な誤解があった。日本経済の本質的な問題は、対外競争力の低下や高齢化・人口減少などリアルな要因による生産性の低下にあった。デフレは結果であり、原因ではなかった。マネタリーベースは今や650兆円を超えているが、賃金増加と物価上昇の好循環は全く見えてこず、日本経済には閉塞(へいそく)感が重く漂っている。異次元緩和策は長期化してしまったが、以下のように深刻な問題を生み出している。
新陳代謝の低下
第一に、異次元緩和政策による超低金利環境は、日本経済の新陳代謝をかえって低下させている。超低金利環境は低収益企業の資金の借り入れを楽にし、その存続を助けてきた。超低金利による円安誘導も、輸出競争力が低下した企業を支えてきた。
その結果、企業倒産件数は減り、失業率は世界有数の低さとなっている。だが、いわゆるゾンビ企業が多数存在すると、薄利多売のビジネスが増え、優良企業もそれに巻き込まれて賃金の低迷が全般化する。これでは異次元緩和を続けても出口は見えてこない。
第二に、異次元緩和は政府の国債発行を著しく容易にしてきた。それにより、政治家を含む多くの人々の財政規律に対する感覚は、現時点の海外諸国に類が見られないほど麻痺(まひ)してしまっている。政府債務がこんなにも巨大化すると、日銀が金利水準を引き上げたら政府は利払い費増大に苦しむため、異次緩和の長期化はその出口政策を一層困難にしていく。
日本のインフレ率は、ウクライナ情勢も加わって春以降2%を超える可能性が出てきている。しかし、黒田総裁は、23年4月8日までの在任期間中に利上げを行うことをかたくなに否定している。今顕在化しつつあるインフレ率上昇はコストプッシュ型であり、賃金上昇による望ましい物価上昇ではないからだという。黒田氏は任期終了まで政策変更せずに逃げ切りたがっているようだ。
岸田文雄首相は3月4日の参議院本会議で、黒田総裁の後任はインフレ目標に「理解のある方が望ましい」と述べた。首相は本音では2%にこだわりをもっていないだろう。しかし、国債金利の急騰はやはり避けたがっている。
この先補正予算を組む可能性はあるだろうし、3月13日の自民党大会では防衛力増強を首相は明言した。それらはさらなる国債の増発につながる。よって、2%インフレの安定的な実現を目指して、簡単には出口政策に進まない人物を次期総裁に選びたいのだろう。
バーチャルな経常黒字
とはいえ、政府、日銀にとって都…
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週刊エコノミスト
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