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管理会社も見放すレベル……増えるマンション”管理難民”の現場=高田七穂

管理組合は突然の管理契約の打ち切りに備えておく必要がある(本文と写真は関係ありません)
管理組合は突然の管理契約の打ち切りに備えておく必要がある(本文と写真は関係ありません)

マンション“管理難民” 増加する管理会社の更新拒否 組合の自主性問われる時代に=高田七穂

「3カ月後に控えた次年度の管理委託契約は更新いたしません」──。首都圏にある築32年、戸数約600戸の管理組合の理事会で約2年前、管理会社の担当者が、突然、1枚の紙を差し出した。「なぜ?」「何がイヤなの?」。理由を聞く理事たちに、担当者は「会社の方針です」と繰り返すばかり。和やかだった理事会は凍り付いた。

 マンションの管理組合は7年前、この管理会社に変更していた。管理委託費は下がり、質は良くなった。だが、今回、事前の打診はなかった。この日は、理事長が「お預かりしておきます」と収めるのが精いっぱいだった。

 マンション管理会社が、管理組合との管理委託契約を更新しない例が増えている。NPO法人マンション管理支援協議会(東京都)の調べでは、ある大手財閥系管理会社は2021年4月~22年3月の1年間で、約3万7000戸の管理を打ち切ったという。

 管理組合と管理会社は、お互いが業務に納得して契約期間を設け、管理委託契約を締結する。一方で、双方には、契約を更新しない自由がある。国土交通省がまとめた契約書のひな形「マンション標準管理委託契約書」の第19条には、「相手方に対し、少なくとも3カ月前に書面で解約の申し入れを行うことにより、本契約を終了させることができる」と明記されている。この条文に従った契約であれば、管理会社側からも3カ月前に更新拒否ができる。

「パワハラ」も原因に

 管理組合は少しでも廉価で管理を委託したいし、管理会社は営利企業として少しでも利益を得たい。近年、管理会社は人手不足や管理コストの上昇などにより、これまでの受託費用では採算が合わなくなってきた。加えて、これまで企業収益の一部を占めていた大規模修繕工事の受注は難しくなっている。管理組合側が学習し、大規模修繕工事で相見積もりを取るケースが増えているからだ。

 加えて、「管理会社からの拒否理由には、管理組合からの契約外の要求やパワハラもある」(東京都内のマンション管理コンサルタント)。

 ある都内のマンションの管理組合(築25年、70戸)は、契約途中の3カ月前に突然、管理会社から解約を告げられた。後日、理事の一人が「ある理事が管理会社の担当者に、いつも1時間以上も説教するなどの態度が原因」と人づてに聞いてきた。ある管理会社の関係者は、昨年1年間に更新しない旨を申し入れた割合は「全委託契約の0・1%」と明かす。

 冒頭の管理組合は、顧問契約していたマンション管理士に相談し、契約終了後も3カ月間、管理を委託する暫定契約を締結した。残りは6カ月弱。だが、世帯数が多く、短期間で総意を得られるかが難関だった。連日、理事会を開き、広報紙にまとめ、全戸に配布。理事と有志12人からなる「会社変更チーム」を結成し、同じ管理内容で実績が多く、仕様は同じで委託費用がほぼ同額の大手1社を総会にはかることにした。

 この大手1社を選定したのは、ほとんどの会社が今よりかなり高い価格を提示してきたからだ。会社変更チームは、価格が高くなれば管理組合の総会で賛成は得られにくいと考えた。臨時総会では、選定方法や管理内容に質問が集まったが、問題なく決議できた。理事長は「複数から価格面で見積もりを断られた。当たり前に管理が受けられる時代ではないと知った」と話す。

高い委託費でも選択

 一方、最終選考に残った2社のうち、委託費が高い会社を選んだ管理組合もある。

 川崎市の「エスポワール五月台管理組合」(築29年、19戸)は、21年2月の行動開始からわずか3カ月で新会社を決めている。契約更新の11カ月前。管理会社から、理由なく「次年度に委託費を最大87%アップ」の通知を受けた。当時の副理事長で、現在理事長の男性は「大規模修繕前の調査が終わったところで、『今更、管理会社を変えるのは……』という雰囲気があった」と振り返る。

 値上げを受け入れ、管理を継続するのか。だが、提案されていた大規模修繕の費用は総額約6000万円。しかも金融機関からの借り入れが前提のプランだった。それしかないのか。毎月、居住者同士で建物清掃を行っており、普段から管理について話す機会があった。今、理事は4人の半数交代制だが、かつて全員交代で理事7人だったときもある。管理意識は共有されていた。

 定期総会の3カ月前。「やってみよう」と、現理事長の妻がインターネットで管理会社を探し始めた。見積もりを得た10社から2社に絞り、10人以上が参加した公開説明会を経て、クローバーコミュニティ(東京都品川区)に決めた。残った1社より費用は高いが、長期修繕の独自システムなどに支持が集まった。差額以上に、今後の大規模修繕のサポートに対する期待の声が大きかった。総会決議もスムーズだった。途中、管理会社から「…

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