法務・税務

《相続&登記》早めでシンプルな遺産分割を促す10年規定とは=竹内亮

改正法適用で遺産分割が促される
改正法適用で遺産分割が促される

 所有者不明土地の主な発生原因は、所有者が死去した後、遺産分割協議がされず、相続登記がされないことだ。例えば、土地の登記簿の所有者の欄に「田中太郎」と書かれているが、実際には田中太郎さんは既に死去している場合である。この場合、登記簿を見ただけでは現在の所有者は分からず、その土地を田中さんから購入することも当然ながらできない。

 土地が都心にある場合には、その経済的価値が大きいので、誰がどの遺産を取得するかを決める遺産分割協議が行われやすい。遺産が多く、相続税の申告が必要な場合も被相続人(死去した人)が死去してから10カ月の申告期限があるため遺産分割が促される。遺産分割協議がされたり、さらにその土地の全体や一部が売却されたりすると、登記が更新されていくことが多い。

 しかし、それほど地価が高くない地方の土地で、夫が死去した後に妻や子が引き続きその土地に住むような場合や、相続税の申告が必要でない場合は遺産分割協議が行われにくく、結果として相続登記がされないままになることが生じやすいのである。

 2021年の民法改正では、遺産分割の方法が変更された。特別受益と寄与分を加味した遺産分割を請求できる期間を、被相続人が死去してから10年間に限ることになった。早期の遺産分割を促すことと相続をシンプルにすることを狙っている。特別受益は被相続人から生前に得た贈与などである。典型的なのは、子がマンションを買う時に親から資金を出してもらったという場合だ。寄与分は、逆に子が親にマンションを買ってあげたような場合である。

法定相続分と差異

 特別受益と寄与分を制限するのは、多くの場合に相続を複雑化させる原因がこの二つだからである。具体的に見てみよう。

 ◆想定ケース

 田中太郎さんは埼玉県に土地を持っていた。田中さんはその土地に自宅を建て、妻弘子さんと長男健太郎さん、長女香織さんの4人家族で住んでいた。その後、子ども2人は結婚して家を出た。田中さんは00年に死去し、妻弘子さんは引き続き自宅に住んでいたが、高齢者施設に入って21年に死去した。現在、健太郎さんは転勤を経て福岡に、香織さんは東京に、それぞれ家族と暮らしている。埼玉の土地について遺言が書かれたことはなく、遺産分割協議が行われたこともない。土地の登記簿の所有者欄には、現在も死去した田中太郎さんの名前が書かれている。

 この土地は現在、法定相続人である健太郎さんと香織さんの共有である。所有者を決める遺産分割をする場合、父親の田中さんと母親の弘子さんの双方について遺産分割協議が必要である。問題をさらに複雑にするのは、健太郎さんと香織さんが、特別受益と寄与分を主張した場合である。

 香織さんが「健太郎兄さんが福岡に買ったマンションの頭金は父親が出している」と言えば、健太郎さんは「香織が自分の長男を私立大学の薬学部に入れた時に学費を父が出している」と言う。さらに香織さんは「母の晩年、私は毎週2回施設に通って世話をしたが、兄は全く面倒をみなかった」と言うのに対して、健太郎さんは「香織は母からその分、小遣いをもらっていて、むしろ得をしている」と主張する。

 このように特別受益と寄与分が、遺産分割を長期化・複雑化させるのである。これは家庭裁判所に認められる特別受益・寄与分の範囲が一般に思われているよりは狭いことと、お金の問題に加えて親の愛情の問題とリンクすることが影響している。

 改正法の施行後は、被相続人が死去して10年を経過すると、特別受益と寄与分を加味することなく遺産分割が行われる。なお、相続人全員が合意すれば自由な割合で分けることができる点は変わらない。ここで問題になっているのは、話し合いが決着せずに家庭裁判所に持ち込まれる場合である。

 具体的な差異を見てみよう。健太郎さんが、福岡のマンションを買う時に頭金1000万円を父田中さんから出してもらったとしよう。この場合、父田中さんが現実に残した遺産4000万円に健太郎さんに援助したマンションの頭金を加えた5000万円が実質的な遺産(みなし相続財産)となる。

 妻弘子さんが2分の1に当たる2500万円を相続した後で、残り2分の1を健太郎さんと香織さんが同じ割合で相続する。この事例でのマンションの頭金の援助は典型的な特別受益(生前贈与)であるから、改正法の施行前であれば、健太郎さんの特別受…

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週刊エコノミスト

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