企業が働き方調査を続ける理由=黒崎亜弓
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民間データ
同じ人に定期的に聞き続けるパネル調査は、変化とその背景をつかむ手がかりとなる一方、多大なコストがかかる。大規模なネット調査に乗り出したのは一民間企業だった。
「広く分析されれば実態解明に」=黒崎亜弓
この2年、コロナでリモートワーク(在宅勤務)が推奨されてきた。ほとんど出社しなくなった人がいる一方、職場の風景に変わりはない人もいる。個人の体験や身の回りで見聞きしたことは事実だが、必ずしも社会全体に通じるものではない。
「全国就業実態パネル調査」によると、「1週間に1時間以上、職場以外の場所で働いた人」はコロナ前の2019年12月時点に雇用者の6.8%だったが、20年春の緊急事態宣言下に26.5%まで増え、20年12月には12.0%に下がった。リモートワークが普及したといっても3割程度だったという全体像が見えてくる。
この調査は、同一個人が継続して回答するパネル調査だ。対象は約5万人。リクルートワークス研究所が16年から毎年実施する。
公的統計を補完
調査を立ち上げた調査設計・解析センター長の萩原牧子さんは「働き方が望ましい方向に向かっているのかどうか、実態と変化を徹底的に把握しようとすると、既存のデータだけでは足りなかった。公的統計は信頼性が高く、基本的なところを把握する調査なので、それを補完する役割を担おうと考えた」と狙いを話す。
働き方に関する主な公的統計は、約100万人を対象に総務省が行う就業構造基本調査(就調)だが、5年に1回だ。
萩原さんは、海外で普及しているパネル調査が日本では限られることに問題意識をもっていた。ワークス研究所で立ち上げるにあたって、外部の有識者による調査設計委員会を設けた。
「データを広く使ってもらうことが狙いだったので、質を担保できるように設計・実施している」
日本全体の働き方を反映させて定点観測できるよう、総務省の労働力調査に性別、年代、就業形態、地域ブロック、学歴の比率を合わせてインターネットモニターを抽出し、集計時に調整する。設問は100を超え、メンタルヘルスや副業など多岐にわたる。
ワークス研究所は、調査結果をクロス集計ができるようウェブサイトで公開し、研究者向けの個票データを東京大学社会科学研究所のデータベースに格納する。
「私たちだけでデータを囲い込んでいても働き方の謎は解けない。多面的、多角的に分析できれば実態解明が早く進む」と萩原さん。担当研究員の仕事は時に、結果の分析より調査の運営が大きな割合を占めるという。
調査は何か収益を生むわけではなく、事業とも中立を保つよう、調査設計やデータの扱いに気を配っているという。
「会社のマーケティングのために調査を行っているわけではない」と萩原さんは言い切る。とすると、会社が調査にコストをかける目的はどこに見いだせるのか。「社会のために必要な発信を行えば、結果として会社のレ…
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週刊エコノミスト
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