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再エネ電源の安いアメリカが水素に期待するわけ=土方細秩子

水素先進国アメリカ

 日本に比して圧倒的に安い再エネ電源を武器に米国は水素社会に向け大きくかじを切った。

巨大な蓄電容量を実現 2030年には電力と同等価格に=土方細秩子

 米エネルギー省(DOE)によると、米国で最もコストの安い電力源は昨年までは太陽光だったが、今年に入り陸上風力になった。キロワット時当たりのコストを比較すると陸上風力が0.037ドル(約5円)、太陽光が0.038ドル、水力が0.039ドルで、天然ガスが0.043ドルだ。逆に最もコストが高いのが石炭の0.12ドルとなっている。2020年時点の日本で最も安い再生可能エネルギーは経済産業省の試算で事業用の太陽光が12円である。米国の再エネ電源がいかに安いかが分かる。

 米国では再エネが急速に進み、22年は昨年比で8%以上の成長となった。中でもテキサス州が最も積極的に再エネに取り組んでおり、カリフォルニア州が続く。カリフォルニア州では今年5月の電力源が100%再エネとなった。

 しかし、ウクライナ危機など想定外の出来事でエネルギー費用は上昇の傾向にある。さらに今後の電気自動車(EV)や充電ステーションの普及を考えると、安定した電力供給は喫緊の課題であり、再エネによって生まれた電力をいかに有効に活用するか、さまざまな議論が推し進められている。その中で注目を集めているのが水素の存在だ。

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 余剰電力を貯蔵し、必要な時に送電線に戻す、という考え方は新しいものではない。米国では既に米EV大手テスラなどが蓄電システムを提供する。しかし、蓄電容量そのものを考えると、水素はバッテリー(電池)よりもはるかに大きい規模の貯蔵が可能となる。バッテリーの蓄電容量が最大10メガワット時であるのに対し、水素では最大容量が1テラワット時と圧倒的である上に、保存期間も長い。さらに合成メタン、液体、燃料電池などの形で還元できる。

 CAISO(カリフォルニア州独立電力システムオペレーター)によると、20年に同州で太陽光・風力で発電した1587ギガワット時もの電力が廃棄された。効率的な蓄電政策を取らない限り、この数字は30年には年間で1万2000ギガワット時になると予測されている。

 この問題に積極的に取り組んでいる企業の一つが、ロサンゼルスに本社を置く8(エイト)ミニッツだ。同社は世界最大級の太陽光発電オペレーターで、発電と蓄電を同時に提供する。現在5400メガワットの発電、4500メガワット時の蓄電の契約を各地の電力会社から請け負っている。今後の膨大な蓄電需要に備え、同社は水素を使ったシステムの導入を計画中で、実証実験の段階に入っている。

 またテキサス州のアルカイア・エナジーは、水素からメタノールを発生させることで再生可能天然ガス(合成メタン)を生み出し、エネルギーとして使用する事業を推進している。

 米国の水素インフラに…

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