経済・企業

取り扱い注意のモビリティーデータは新サービスの種でもある=坂上翔

モビリティーデータ

 利便性の高いサービスを生む「モビリティーデータ」は経済安全保障面でも重要度が増している。

中国・欧州が環境整備で先行 メーカーはサービス化の壁=坂上翔

 世界の自動車大手と新興の部品サプライヤー、さらには巨大IT企業がいま、“クルマ”や“交通インフラ”から生まれるさまざまな“デジタルデータ”、すなわち「モビリティーデータ」に着目し、それを利用したビジネスを立ち上げようとしている。

 クルマから生まれるデータは、CASE(コネクテッド・自動運転・シェアリング・電動化)によるクルマの「センサー端末化」によって爆発的に増加する。位置情報や速度情報に加え、電気自動車(EV)の充電状況や、車両の外部環境に関する画像データ──などが得られ、データ量が多いほど解析するソフトウエアの性能や分析精度が向上する。データが多様化・多量化すると、それを活用して業界外の企業と連携し新サービスを行うチャンスも広がる。

 トヨタ自動車が開発した自動運転バス「e-Palette(イーパレット)」のように車両内での商品販売をはじめ、さまざまなサービス提供が考えられ、最終的にはインフラや都市と交通サービスが一体化して運用される「スマートシティー」にまで発展すると考えられている。大きな事業機会を前に、自動車メーカーもデータの囲い込みから連携へ動き始めている。

データ保護に動く世界

 一方で、モビリティーデータは個人情報や安全保障上“機微”な情報を含みうる。意図しない相手の手に渡れば損害を受けうるため、適切な形で流通するよう保護する必要があり、国レベルで管理・保護する動きも加速している。

 世界に先駆けて保護にかじを切ったのが中国と欧州だ。

 中国は、データの域外移転規制だけでなく、国内にサーバー設置やデータ保存を命じるローカライゼーション規制を定め、外資ITの参入障壁を築いてきた。政府の地ならしの上でBAT(バット)(バイドゥ、アリババ、テンセント)など中国の巨大ITがモビリティーデータのプラットフォームを築く。

 これまでEU(欧州連合)は、域内に住む個人の情報を「EU一般データ保護規則(GDPR)」で保護し、欧州域外へのデータ移転を制限してきた。こうした動きは世界に広がっており、シンガポールやタイでも域外移転規制が制定され、ベトナムでもローカライゼーション規制が定められた。しかし、規制の存在や内容が分かりづらいことが、事業者のデータ流通を妨げている。従ってデータの保護による経済安全保障と流通による経済の果実取得のバランスを取ることが求められている。

 こうした中、欧州は欧州クラウド/データ流通基盤「GAIA−X」を設立し、データ流通の環境整備を進める。元々GAIA−Xは、「リアルデータの流通におけるGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)対抗」を念頭に、ドイツのBMW、ボッ…

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