減速する中国経済に潜む「低い消費者物価」という問題=谷村真
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中国経済の今年上期は荒れ模様だった。通年では4%程度の成長率となるだろう。
深刻なサービス業の低生産性=谷村真
中国の2022年第2四半期(4〜6月)の実質GDP(国内総生産)成長率は前年同期比0.4%と、第1四半期(1〜3月)の4.8%に比べ減速した。これは、主に上海市のロックダウン(都市封鎖)などの「ゼロコロナ政策」によって経済活動が停滞したからだ。また、それ以前から過剰債務問題是正や不動産市場の過熱抑制を企図した不動産部門への当局の締め付けの結果、同部門の活動が停滞した。
また、個人消費の回復も力強さを欠いており、上期(1〜6月)の成長率も同2.5%と振るわなかった。22年上期は中国経済の先行き懸念が広がり、株や通貨が大きく売られる局面もあって荒れ模様だった。世界のGDPの2割近くを占める中国経済の動向は、日本だけでなく世界に大きな影響を及ぼす。22年下期(7〜12月)の中国経済を展望する上で、カギを握る要因を世界的な潮流と中国固有の状況に分けて考えたい。
外部要因のうち、米国の利上げなど先進国の金融引き締めの影響だが、米中の金利差が縮小・逆転し、外国人の債券投資資金が中国から流出したことなどを契機に、人民元は4月から5月中旬にかけて対ドルで3月末比7%下落した。15年の人民元ショック以来の下落幅であり、1年超にわたり通貨安と外貨準備減少が続いた人民元ショックを想起させたことから一時市場は身構えた。
ただ、元安は今のところ、制御可能な範囲内にとどまっている。15年の人民元ショック時には、外国人投資家の資本逃避に続き、居住者の対外投融資拡大が元安に拍車をかけた。この教訓から、当局は今後、さまざまな手段を通じて制御不能な元安を回避することが見込まれる。
世界的にインフレが進展しており、景気後退と高インフレが同時発生するスタグフレーションの再来を懸念する向きもある。しかし、中国では足元の消費者物価指数(CPI)上昇率は前年比2%台で推移しており、世界的なインフレ圧力からは隔離されている。世界のトレンドとは異質な動きを示すが、ここには中国の構造問題が潜んでいる。
生産者物価と大きく乖離
世界的なインフレ圧力は、主に食品とエネルギー価格を通じて物価動向に影響を及ぼす。このうち食品については、中国の食料自給率は高く、食品価格は国内の天候や豚肉の価格が周期的に乱高下する「ピッグサイクル」によるところが大きい。一方、エネルギー価格については、中国の生産者物価指数(PPI)との相関性が一定程度認められ、中国のPPIは油価高騰を反映し、昨年末にかけて伸び率が前年比10%を超過した。
ところが、同時期のCPIは低水準にとどまり、CPIとPPIの乖離(かいり)が顕著になった(図1)。20年初めにかけて両者の動きが逆方向になったのは、先述のピッグサイクルでCPIが上振れしたためである。他方、コロナショック以降はPPIの高い伸びに比べてCPIの伸びが抑制されている。消費の回復力が弱く、企業が原材料価格の上昇を十分に消費者に転嫁できていないことなどが一般的に要因として考えられてい…
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週刊エコノミスト
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