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コロナ禍 中小企業への資金繰り支援の「功罪」を検討するために=小倉義明

経営相談や資金繰り支援の申請を受け付ける横浜市の窓口には多くの企業関係者が訪れた(2020年3月13日)
経営相談や資金繰り支援の申請を受け付ける横浜市の窓口には多くの企業関係者が訪れた(2020年3月13日)

 第62回エコノミスト賞を受賞した『地域金融の経済学︱人口減少下の地方活性化と銀行業の役割』(慶応義塾大学出版会)の著者が、コロナ禍に実施された中小企業への公的資金繰り支援の功罪を分析するための論点を整理した。

資金繰り支援は廃業回避が目的、雇用を守る一方で新陳代謝を阻害もする=小倉義明

 コロナ禍における断続的な経済活動の停止に対応するために、各国政府は前例のない規模の中小企業向け資金繰り支援を実施した。こうした支援は政治的には肯定的に評価されることが多いが、経済学者からは批判されることの方が多いようである。資金繰り支援が過大なのか、あるいは過小なのか、実証研究は蓄積の途上にある。本稿では、こうした資金繰り支援の功罪について検討すべき論点の整理を行う。

 2007~09年の世界金融危機、20~21年のコロナショックと、経済危機のたびに、財務基盤が脆弱(ぜいじゃく)とされる中小企業向けの資金繰り支援が拡充されてきた。施策のうち、特に規模が大きいのが、公的信用保証と政府系金融機関による直接貸し付けである。

 図1はこれらの規模の推移を表したものである。世界金融危機の後、減少傾向にあったが、コロナショックに見舞われた20年度から21年度にかけて、世界金融危機時をはるかにしのぐ規模に拡大した。従来の信用保証制度を拡張する形で、20年5月から導入された無担保・無利子融資「ゼロゼロ融資」が大きく寄与したことがうかがわれる。これらの支援の結果、企業倒産が低位に推移したことはよく知られている。

激増した融資

 他の主要先進国でも類似の支援策が取られた。21年10月時点で国際通貨基金(IMF)が取りまとめた各国の支援策データベースからは、先進国のほとんどで公的信用保証が活用されていたことが分かる。同表に記載されている各国の公的信用保証予算枠の対国内総生産(GDP)比を見ると、フランス15%、英国17%、ドイツ25%、イタリア35%となっている。

 日本については政府系金融機関による融資も含む予算額でGDP比28%とされている。20年のドイツの政府系金融機関による直接貸し付けがGDP比で4%程度なので、日本の資金繰り支援予算枠はおおむねドイツ並みであったと推測される。米国でも信用保証制度は用いられているが、それ以上に目立つのが、Paycheck Protection Program(PPP:給与保護プログラム)と呼ばれる独特な支援策の寄与である(対GDP比で1.5%)。

 これは、雇用維持に資金が用いられる限り返済義務が免除されて補助金扱いとなる一方で、それ以外の目的で用いられた場合は年利1%、満期2~5年の無担保・無保証融資として扱われる制度である。PPPとその他信用保証枠を合わせても、GDP比で3.7%程度の規模であり、米国における支援策はかなり控えめである。

 こうした政策的下支えにより、非金融法人向け融資が20年から21年にかけて急拡大した。図2は、各国の経済規模対比での融資変化額を示したものである。政府系金融機関の役割が資本性資金供給と信用保証に限られている英国以外は、政府系金融機関による直接融資が加算されている。日本はGDP対比で8%もの増加を見ており、他国よりも大きい。

 日本に次ぐのがフランスと英国である。米国は、20年に急増した後、21年には融資残高が縮小し始めている点が特徴的である。前述のPPPの債務免除の仕組みや、中小企業向け融資の証券化市場が発達していることが影響していると見られる。ドイツとイタリアは予算枠の割には小幅な増加にとどまっている。

 このように、世界各国で採用されている直接貸し付けや信用保証の効果について、これまで提示された実証研究は総じて手厳しい。例えば、米国のPPPについては、供給された資金のかなりの部分が、感染状況の軽い地域の企業の手元現金…

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