ウクライナ戦争 長期化しても拡大させない条件=佐藤丙午
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ロシアによるウクライナ侵攻は、東部2州の併合で終わる保証はどこにもなく、停戦のあっせんも難しくしている。
「長期戦」か「年内停戦」か NATO内で割れる見通し=佐藤丙午
今年2月から始まったウクライナ戦争(ロシアによるウクライナへの軍事侵攻)は、国際社会を根本的に変えた、と表現するのは大げさかもしれない。しかし、極めて大きな動揺をもたらしたことは否定できない。
ウクライナ戦争は、少なくとも欧州の国際秩序に三つの影響を与えた。第一に、現在の「体制」が続く限り、ロシアは欧州の一員どころか、日米欧が主導する国際社会の一員としては迎えられないということである。ウクライナのブチャでの住民虐殺などに対する嫌悪感や、残虐行為そのものに対する警戒感は、それほど簡単にはなくならない。
第二に、これまでNATO(北大西洋条約機構)とロシアの中間に存在した緩衝国家が、それぞれの安全のため、NATO側に庇護(ひご)を求めることになった。これにより、NATOはベラルーシなどの親ロシア派の国家を通じ、ロシアと直接対峙(たいじ)することになった。今年6月のNATO首脳会議で合意された「新戦略概念」で、ロシアがNATOの公式的な「敵」と規定されたのも当然の帰結である。
第三に、ロシアは欧米主導のグローバリゼーションや規範秩序に順応できなくなり、独自の世界秩序を構築する必要に迫られることになった。この点において、ロシアは米国に代わる覇権国への野望を持つ中国との親和性が強くなり、一時的ではあるが、中露が日米欧などに代わる枢軸を形成し、国際社会が二分されるような状態が生まれることになる。
このように、ウクライナ戦争により、世界秩序は見直しへと向かう可能性が生まれたのである。ただ、秩序の見直しは緩慢に進むプロセスであり、国際関係にドラスティックな転換が発生するわけではない。現在の国際社会が恐れるのは、この戦争がいつまで続くか、そしてどこまで波及するか、であろう。
「辺境」にとどめる調整
戦争の見通しは、NATO内でも分かれる。英米加などが長期戦を覚悟して、ウクライナ側への武器支援に積極的なのに対し、仏独伊などは年内での停戦を求めているとされる。後者を「妥協派」と形容することもあるが、いずれも陸上戦闘の拡大が本国に影響を与える可能性を危惧している。
ただし、現時点でロシアが確保したウクライナ領などの利益を容認することは、ウクライナにとって満足できるものではない。また、ロシアの侵攻がウクライナ東部2州の併合で終わる保証はどこにもない。したがって、ウクライナ戦争の停戦のあっせんは、ナチスドイツの主張を容認した「ミュンヘンの宥和(ゆうわ)」の再来と批判される。
これはウクライナも理解しており、過去の教訓を踏まえ、NATO諸国に対し、戦争の長期化に対する支援や、領土奪還への支持を求めているのである。つまり、ウクライナにとって、戦争の長期化は必然、ということになる。そうなると、ウクライナ戦争が現時点の「辺境戦争」にとどまらず、NATOを巻き込む「世界戦争」へと発展する可能性があるかどうかが焦点になる。
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週刊エコノミスト
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