資源・エネルギー

次世代型原発ともてはやされるSMR開発に決定的に欠けているもの=村上朋子

茨城県大洗町にある日本原子力研究開発機構の高温工学試験研究炉(HTTR)。原子力規制委員会の安全審査に合格し、昨年7月に10年ぶりの運転再開となった
茨城県大洗町にある日本原子力研究開発機構の高温工学試験研究炉(HTTR)。原子力規制委員会の安全審査に合格し、昨年7月に10年ぶりの運転再開となった

 次世代型原発として注目が集まる小型モジュール式原子炉(SMR)。だが1970年代前後から開発されてきたものにもかかわらず、実用化に至っていないのが現実だ。

挑戦し続ける覚悟と信念が開発者にはあるのか

 ここ数年、特に国際原子力関連のニュースで、新しい型式となる「小型モジュール式原子炉(SMR)」の文字を見ない日はないくらい、猫もしゃくしもSMR、SMRともてはやすブームとなっている。

 技術中立的な立場のはずの国際エネルギー機関(IEA)でさえ、6月30日付のリポート「Nuclear Power and Secure Energy Transitions: From Today's Challenges to Tomorrow's Clean Energy Systems(原子力と安全なエネルギー転換:今日の課題から明日のクリーンエネルギーシステム)」で、「温暖化ガス排出ゼロに向けた取り組みの中で、SMRへの追い風加速」と盛大に持ち上げている。

 実はSMRが昨日今日考案されたものではなく、1970年代かそれ以前から日本を含む多くの国で開発されてきながら、今日に至るまで数基の例外を除きほぼ1基も実用化されたことがないとの事実には全く触れられていない。

 SMRは、「スモール・モジュール原子炉(Small Modular Nuclear Reactors)」の略称で、その名の通り小型。従来型原発の「軽水炉」と呼ばれるタイプの原発だと、出力は90万~120万キロワットが主流だ。一方、考案されているSMRの多くは、30万キロワット程度だ。

 SMRの開発者らは、「多くの部品を工場で一気に大量生産し、各地の建設地に持っていくという量産化がしやすい」「別の設備も併設しやすく、例えば原子炉で作った熱を利用して発電と同時に水素も作れる」などとしている。

欠ける“顧客”目線

 ここで国の原子力政策などを審議する原子力委員会が2000年まで、5~6年置きに策定していた政策文書「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画(長計)」に着目したい。ちなみに長計に“SMR”の言葉が初登場したのは、82年(第6回)だ。

 開発について、「技術的に最も安定している軽水炉の多目的熱利用については、中小型軽水炉(SMRを指す)の利用を含め、条件によっては比較的早期に実現する可能性があり(中略)民間主導の下で進められるべきもの」とある。

 この「民間主導で進められるべき」との部分からは、国は「既に研究開発段階は過ぎた。今後は市場原理で普及していく」と考えていたらしいことも推察される。

 日本では70~80年代、全国で約50基の原発(軽水炉)が建てられた。文書策定当時、既に大型軽水炉は実用化され、技術は成熟期にあるのだから、民間の創意工夫により、小型化はもちろん、それを水素製造など発電以外の熱利用にも適用することく…

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週刊エコノミスト

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