週刊エコノミスト Online 高齢化
タイ初の認知症カフェにバンコク郊外の自治体が取り組むに至った経緯=斎藤信世
有料記事
日本以上のスピードで高齢化が進む東南アジアのタイ。労働力人口の減少で経済への影響も懸念される中、日本の高齢者ケアの事例を生かしながら先進的な取り組みを行う自治体を取材した。
急速に少子高齢化が進む東南アジアのタイ。政府組織「タイ国健康促進財団」によると、2022年中にも高齢社会に突入し、全人口の約20~30%を高齢者が占めることになるという(タイでは60歳以上を高齢者と定義)。
世界保健機関(WHO)は、65歳以上の高齢化率が7%超で高齢化社会、14%超で高齢社会、21%超で超高齢社会と定義している。そんな急速に高齢化が進むタイで、横浜市のNGO(非政府組織)「野毛坂グローカル」が同国の自治体や大学と協業し、高齢者ケアに関する制度設計に取り組んでいる。
野毛坂グローカルは8月1日、国際協力機構(JICA)や神奈川県湯河原町、タイの9自治体、同国の名門タマサート大学、大阪大学などと協業で、日本とタイの高齢者ケアを学び合うプロジェクトを開始した。
野毛坂グローカルの奥井利幸代表は、「タイは日本以上に自治体の規模によって、それぞれ格が異なるため、自治体同士のネットワーキングがなかなか進まない。JICAの枠組みを利用しながら、自治体同士をつなげ、日タイで高齢者ケアに関する学び合いの場を作りたい」と意気込みを語る。
世界銀行のデータによると、タイの合計特殊出生率は1960年には6.1だったが、20年には1.5まで減少(図1)。また、国連の「世界人口推計」のデータによると、70年のタイの出生数は年間で約130万人だったのに対し、20年には同約64万人と年々減少傾向にある(図2)。
市長が日本を視察
このように急速に高齢化が進むタイで、日本の高齢者ケアの事例を参考にしながら、先進的な取り組みを行う自治体がある。
首都バンコクから車で1時間弱、人口約3万5000人のブンイトー市だ。同市のランサン・ナンタカウォン市長によると、ブンイトー市の現在の高齢者の割合は15%強だが、25年には約20%への増加が見込まれるという。ナンタカウォン市長は、「高齢化率の高まりは、社会にとっては損失だ。家族の介護などで働けなくなる若い人も増え、税収にも影響する」と、危機感を強める。
そう遠くない将来に高齢化が深刻化すると感じたナンタカウォン市長は04年、タマサート大学で高齢者ケアや社会福祉制度に関する研修を受講し、そこで日本行きの提案を受けた。ナンタカウォン市長は、「超高齢化社会を進む日本から、多くのことを学んだ」と当時を振り返る。日本では、地域コミュニティーの役割(町内会や民生委員、見回りボランティアなど)や、特別養護老人ホーム、老人福祉センターなどを視察したという。
その後、19年11月には日本での学びを生かし、タイの自治体としては初めて、高齢者デイケア施設を併設する病院「医療・リハビリテー…
残り825文字(全文2025文字)
週刊エコノミスト
週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める