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週刊エコノミスト Online 歴史に学ぶ 戦争・インフレ・資本主義

モスクワの今 経済制裁下で安定の国民生活 西谷公明

モスクワ中心部の様子。市民生活は平穏さを保っている(2022年10月) 筆者撮影
モスクワ中心部の様子。市民生活は平穏さを保っている(2022年10月) 筆者撮影

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制裁が長期化すれば中国頼みが不可避

 10月に訪問したロシアの首都・モスクワは、意外にも平穏で落ち着いていた。今は日本からの直行便はなく、トルコのイスタンブール経由で入国した。到着はモスクワ第3のヴヌーコヴォ空港だった。今回が初めての利用で、国際空港に様変わりしていた。

 空港周辺を含めて都心までの沿線開発が進んでいて、あちこちに新築の高層集合住宅やオフィスビルが建ち、地下鉄の新路線の工事が行われている。「変わっていないな」──。3年ぶりに足を踏み入れた最初の印象である。

 筆者は、長銀総合研究所のエコノミストとしてキャリアを始め、1999年にトヨタ自動車に転職し、2004〜09年に現地法人「ロシアトヨタ」の社長を務めた。そうした経験を踏まえて現在は民間エコノミストとして活動している。今回のモスクワ訪問は、今年2月に発生したロシア軍のウクライナ侵攻に伴い、西側諸国の経済制裁を受けたロシアの経済状態を視察するのが目的だった。

新車が入手困難に

 ロシア経済は、8年前のクリミア併合に伴う西側の経済制裁の始まりを受けて急速に落ち込んだ(図)。経済制裁に並行して原油の国際価格が急落し、原油や天然ガスなど化石燃料の輸出に依存する同国経済には打撃となった。

 西側の経済制裁が始まった頃からロシアの政策運営や社会の保守化が進み、経済自体もむしろ停滞感が漂ってはいた。その一方で、上述のように都市開発などは当時から継続していた。

 2月のウクライナ侵攻で、クリミア併合時の制裁よりもはるかに厳しい制裁が科せられたことで、ロシア経済は一段と下押ししているかというと、モスクワ市内を見る限りそうした様子はうかがえない。むしろ「安定している」という印象だ。

 西側の有名企業が相次いでロシアから撤退したのは報道の通りだ。マクドナルドは「フクースナ・イ・トーチカ」、スターバックスは「スターズコーヒー」に、バーガーキングは「バーガーヒーローズ」にそれぞれ看板を変えたが、店内はどこも混んでいた。宝飾やファッションなど西側の有名ブランド店は在庫が少なくなるにつれて価格も上がっている。ただ、ロシアで西側ブランドの商品を日常的に愛用している人たちは人口(1.4億人)の1割程度に過ぎない。大多数のロシア国民は、ブランド品とは無縁の生活を送っており、西側企業の撤退をほとんど気にしていない。

 ロシアにおける9月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比13.7%上昇で、8月(同14.3%上昇)に比べると上がり幅は縮小したものの、依然として高水準だ。ただし、物価上昇率にほぼ連動して賃金、年金も上がっており国民生活は安定している。

 モスクワで再会したロシアの友人に、「この半年でいちばん変わったことは何か」と尋ねると、「車が買えなくなったこと」と答えが返ってきた。西側の自動車メーカーはロシアでの現地生産をやめ、完成車のロシア向け輸出も止まっている。ロシアの現地ブランド「ラーダ」も先端部品を輸入できず、…

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