2023年の米国景気は後退?Yes or No 宮嶋貴之/高橋尚太郎
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景気後退の可能性高い 宮嶋貴之
米連邦準備制度理事会(FRB)の急速な利上げの実施に伴い、金融市場では米国の景気後退入り(リセッション)への懸念が高まっている。パウエルFRB議長もインフレ抑制を優先する方針を示唆しており、景気の軟着陸を目指すとしつつも、そのハードルが高いことは認めている。
今後の米国のリセッション入りの蓋然(がいぜん)性を考えるにあたっては、中国経済の動向や地政学リスクなど米国以外の要因も考慮する必要があるが、ここでは焦点を米国の政策金利であるFF金利に絞って考察してみよう。
過去を振り返ると、FF金利が名目潜在成長率近傍の水準に近づくと、(100%ではないが)その後に景気後退が発生する傾向がある。名目潜在成長率は実物資産への投資による収益率に近似し、この水準を金利が上回った場合には借り入れコストの方がより大きくなると考えられる。そのため、投資が急速に手控えられ、景気後退に陥る可能性が高まる。
インフレ抑制失敗リスク
現状の名目潜在成長率はおおむね4%強と推計され、FF金利は既にその水準に肉薄しているが、債券市場ではFF金利の終着点(ターミナルレート)を5%程度と見込んでいる。パウエル議長ら米連邦公開市場委員会(FOMC)参加者の発言をみても、いまだ高水準で推移するインフレ率を抑制するために、FF金利を5%近傍まで引き上げることは想定済みのようだ。
この見通しから考えると、FF金利が名目潜在成長率を上回るため、来年の景気後退の確率は相応に高い状況といえよう。ただし、FRBのもくろみ通り、インフレ率の抑制に成功すれば、景気後退入りしたとしてもFF金利を引き下げる対応が可能となる。そうなれば、景気の谷の深さは浅くなり、早期の底打ちにつながる。
当社メインシナリオでは、FF金利の最終到達点を5.125%と想定し、利上げの効果発現とエネルギーや住宅価格の低下などによって、来年後半以降にインフレ率が財や家賃を中心に相応に低下すると見込む。その結果、FRBが24年1〜3月期から利下げに転じることで、深い景気後退入りは避けられると想定している。
リスクシナリオはインフレ抑制に失敗するケースだ。現在、高止まりが続くサービス価格には賃金の伸び率が反映されやすく、これを抑制するためには労働需給の逼迫(ひっぱく)感の緩和が不可欠だ。しかし、高齢者を中心に労働参加率がいまだコロナ禍前の水準を取り戻せておらず、労働供給制約改善の兆候はみられない。
加えて、コロナ禍を契機とした急激な環境変化(デジタル化など)により、労働者に求められる経験やスキルが大きく変わったことから、企業の人材確保は難航しており、そのため賃上げの動きは根強い。
この労働供給制約やミスマッチが今後も解消されなければ、FRBは労働需給のバランスを取り戻すために、FF金利を現状想定される5%程度よりもさらに引き上げる必要性に迫られる。
ローレンス・サマーズ元米財務長官は労働市場の過熱感が強いことから、インフレ抑制のためにFF金利が6%以上になっても驚かないと指摘している。仮にサマーズ氏の警告が現実化すれば、深い景気後退は避けられないだろう。FRBがどこまで利上げを強いられるか、労働需給の状況に要注目だ。
(宮嶋貴之、ソニーフィナンシャルグループ・シニアエコノミスト)
週刊エコノミスト2022年12月1…
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