国税が国外財産の捕捉に活用する「3調書」とは 多田恭章
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今年度の税制改正で、財産債務調書の提出義務者の対象に、財産10億円以上の人も新たに加えられた。>>特集「狭まる包囲網 税務調査」はこちら
富裕層狙い提出義務者の対象拡大
海外取引による課税逃れを封じるため、近年、国税当局は日本人が保有する国外財産に対する情報収集を強化している。そのためのツールとして代表的なのが「法定調書」と呼ばれるものであり、その中でも「国外財産調書」「財産債務調書」「国外送金等調書」の3調書を国税当局は海外資産把握手段として重要視している。
近年では、情報収集強化の観点から、調書が頻繁に見直されているので、多額の財産を保有する人は税制改正の動向に注意する必要がある。国外財産の申告漏れがないように注意したいところだ。
1 国外財産調書 伸びない提出枚数
5000万円を超える国外財産を保有する人は、翌年の3月15日までに当該国外財産の種類、数量及び価額などを記載した国外財産調書を税務署に提出しなければならない。この国外財産調書の提出義務は、所得金額にかかわらず5000万円を超える国外財産を保有するかどうかで判断する。
そのため、確定申告を要しない人であっても、国外財産が5000万円を超えていれば国外財産調書を提出しなければならない。
2020年分の提出件数は1万1331件であり、年々増加している(図1)。しかし、本来の提出義務者はもっと多いのではないかともいわれている。これまで調書を正しく提出していなかった人が新規に提出することにより、過去の申告漏れが明るみに出ることを恐れて提出をちゅうちょしているのではないかと考えられる。
国税庁の発表によれば、国外財産調書の未提出などにより加算税が加重されたケースは20事務年度(20年7月〜21年6月)で307件、申告漏れ金額では約88億円にのぼる。税務調査で申告していない国外財産に係る申告漏れが発覚し、多額のペナルティーを追徴されるケースが多発しているのである。
国外財産調書には、適正な提出を促すためのインセンティブ措置として加算税の軽減・加重措置が設けられている。調書に記載された国外財産について申告漏れがあった場合には、加算税が5%軽減されるのに対し、調書が未提出であったり、提出された調書に記載されていない国外財産について申告漏れがあった場合には、加算税が5%加重される。
そして、20年度の税制改正では、国外財産を有する者が税務当局から国外財産調書に記載すべき国外財産に関する資料(取引明細などのフロー情報など)を指定された期限(60日を超えない範囲)までに提出をしなかった場合には、加算税の軽減措置は適用されず、また加重措置については、加算する割合を5%から10%とする特例が創設された。
2 財産債務調書 財産10億円以上も対象に
所得税の確定申告書を提出する必要がある人のうち、所得金額が2000万円を超え…
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週刊エコノミスト
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