国税職員のモラル 持続化給付金の詐欺に加担 松嶋洋
有料記事
若手の国税職員の給与の低さを事件の背景に指摘する声もあるが、福利厚生は恵まれており、周囲の環境のせいにはできない。>>特集「狭まる包囲網 税務調査」はこちら
不正が後を絶たない組織風土
新型コロナウイルス対策の国の「持続化給付金」をだまし取ったとして、東京国税局職員らの詐欺グループが今年6月、警視庁に逮捕されたことが明らかになった。国民から公正・公平に税を徴収する立場にありながら、コロナ禍を利用した詐欺に手を染めたことが衝撃をもって受け止められているが、元国税調査官として国税の職場を知っている筆者からすれば、このような事件が起きることは容易に想像できた。
報道によれば、東京国税局鶴見税務署の20代の職員は、同じく詐欺容疑で逮捕された同期入庁の20代の元職員から誘われて詐欺グループに加担。2人は税務の知識を悪用し、給付金の申請に必要な虚偽の確定申告書類を作成したという。東京国税局は今年9月、詐欺罪に問われて公判中の職員を懲戒免職としたほか、元職員には東京地裁が今年10月、詐欺罪で懲役3年、執行猶予5年の有罪判決を言い渡している。
それ以前にも、2020年12月には同様に虚偽の確定申告書を作成し、持続化給付金をだまし取ったとして、東京国税局甲府税務署の20代職員が愛知県警に詐欺容疑で逮捕されている(その後に有罪判決)。
ただ、こうした国税職員の不正は珍しいことではない。国税職員は毎年数回、「予防講話」という違法行為や信用失墜行為(非行)を防止するための研修を受けるが、裏を返せば不正行為が後を絶たないからである。
恵まれた福利厚生
「税」と聞くと非常に厳かで繊細なイメージを持たれるが、国税組織の実像は決してそうではなく、税金の計算誤りや法律に違反した課税なども散見される。そのため、法律に多少違反しても大きな問題にはならないと考えてしまう愚かな職員も存在する。また、国税局や国税庁の仕事は激務であるが、末端組織である税務署の職場は楽である。そのため、空いた時間を使って、よからぬ行為を働くことも多い。
何より、国税職員の人事はすべからく能力以外の「ゴマすり」で決まる。このため、仕事に励むというインセンティブは基本的に薄く、優秀な職員であっても出世するとは限らないため非常に腐りやすい。結果として、コンプライアンス意識の低い職員が非常に多い。すなわち、組織の風土として不正が起こりやすいのが国税の職場であり、だからこそ職員の非行を防ぐための研修を繰り返し行わざるを得ないのだ。
国税職員による給付金詐欺が生じた背景として、国税職員の手取り月収が少ないことを指摘する声があった。その指摘によれば、若手職員は手取り月収が20万円にも満たないため、経済的に困窮しており、不正に手を染めやすくなっているという。しかし、筆者の現職時代を振り返ると、国税職員は手取り月収の低さを補って余りあるほどの…
残り1783文字(全文2983文字)
週刊エコノミスト
週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める