マーケット・金融

ロシアに中国、インドまで中央銀行が「ゴールド」をせっせと買うワケ 池水雄一

個人だけでなく中央銀行も「人類共通の価値」を感じている Bloomberg
個人だけでなく中央銀行も「人類共通の価値」を感じている Bloomberg

 米国の利上げとともに下落した金価格だが、底割れすることなく反発に転じた。世界が分断に揺らぐ中、米ドル依存の脱却を図る動きも要因の一つにある。

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 金(ゴールド)価格は2022年3月、ニューヨーク(NY)金先物で1トロイオンス=2075ドルという歴史的高値をつけた後、米連邦準備制度理事会(FRB)による急速な利上げとともに、機関投資家やヘッジファンドの売りによって下落した。ただ、1600ドルを割り込むことはなく、FRBが利上げペースを落とすとの見方が広がるにつれ、12月上旬時点で1800ドル目前まで大きく上昇している。

 下落場面でこの相場を支えたのが現物投資家の動きだ。金融要因を材料に積極的に先物を売り越したり、ゴールドETF(上場投資信託)のロング(買い持ち)ポジションを売却したりしたのは、短期的視野で取引するファンドであった。その売りによって値を下げたゴールドを積極的に買い、マーケットを支えた現物投資家は基本的に個人と中央銀行である。

 個人、中央銀行とも金利やドルの動きはまったく関係なく、ただただ安いというゴールドの価格が直接的な買いの要因である。具体的に目立っているのは、中国、インド、トルコといったアジア、そして中東の現物買いである。それは、ゴールドの下落が1600ドル台にまで至った22年第3四半期(7~9月)、ゴールド現物の一大精錬地であるスイスの輸出入統計に表れている。

 スイスの輸出入統計によれば、中国には160トン、インドには80トン、トルコ62トン、サウジアラビア20トンと、巨大な量のゴールド現物が輸出されている。実際、この時期には、世界の金現物取引の中心地であるロンドンの金取引口座からETFにひも付いていた現物などが多く引き出され、世界最大の金先物市場であるニューヨーク商品先物取引所(COMEX)の現物倉庫からも大量のゴールドが流出している。

 これらのゴールドの大部分は、現物として東へと流れているのである。欧米の短期的投資家がペーパーゴールド(先物)や金融商品としてのゴールド(ETF)を売っているために、現物投資家がここぞとばかりに安くなった現物を買っているという構図があるのだ。さらに、米国やドイツでも個人投資家がこれまで例のないほどの量の地金とコインを買っている。

中銀の購入量が四半期では過去最大の400トンに

 欧州では特に、ロシアのウクライナ侵攻によってエネルギー価格が大きく上がり、インフレ率は10%を超えた。過去にハイパーインフレを経験し、通貨の価値が限りなくゼロになった経験からも、個人投資家がゴールドをインフレリスクのヘッジに買っているのだろう。個人投資家の永遠ともいえる時間軸と、ヘッジファンドや機関投資家の四半期単位の短い時間軸の違いが、見事にその行動を正反対なものにしているのだ。

 そして、この安…

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