原発40年運転制限を延長しても本当に大丈夫なのか 松久保肇
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政府は2022年12月、法律で定められた原発の40年運転制限を延長することを決定した。40年制限にした科学的根拠が軽視されている。
運転延長の科学的根拠に疑問
2011年の東京電力福島第1原子力発電所の事故を受けて、日本の原子力発電所(原発)の運転期間は、12年に当時の与野党合意によって、原子力の安全規制として「原則40年」「例外的に20年延長」に制限することが、「改正原子炉等規制法」で定められた。
この運転期間制限に関して、経済産業省の審議会「原子力小委員会」は22年12月、原発の運転期間を延長できる法改正を含む提言書をまとめた。政府はこれを受けて原子炉等規制法などの改正案を23年の通常国会に提出する予定だ。経産省は審議会などで運転期間の制限に「科学的根拠はない」としているが、本当に科学的根拠はないのだろうか。
原発の設計耐用年数
どんな機械でも、設計する段階で、耐用年数を想定する。原発はどうなのか。
福島第1原発3号機を増設する際の申請資料(1970年1月)には「当社(東京電力)は発電所の耐用年数を30年として指示したが、メーカーは主要機器の設計耐用年数を40年としている」との記述がある。日本原子力発電の東海第2原発(国内初の商用原発)の申請資料(72年12月)では、「寿命末期つまり40年後」との記述がある。国内で最も新しい原発である北海道電力の泊原発3号機の申請資料(00年11月)では、婉曲(えんきょく)な記載だが原子炉容器の想定中性子照射量として「40定格負荷相当年時点」の数値が記述されている。
原子炉格納容器内部では核分裂反応によって常に中性子線が放出(照射)されている。定格負荷相当年とは、100%出力で連続運転したと仮定して計算した年数のことで、実際の運転期間とは違うが、おおむね日本の原発は40年稼働を基準に設計されてきたことがうかがえる。つまり、40年という寿命の設定に根拠は存在する。
身近にある機械と同じように、原発も設計寿命が来たからといって、すぐに壊れるわけではない。このため原子力規制委員会は「将来的な劣化の進展については、個別の施設ごとに、機器等の種類に応じて、科学的・技術的に評価を行うことができる」としている。ただし、山中伸介・原子力規制委員会委員長は「(経年化が進むほど)基準適合性に関する立証というのはかなり困難になってくる」と発言している。劣化が進めば進むほど、故障する可能性は増える。
また、設計そのものの古さも問題になってくる。現在、運転開始から40年を迎えた、または迎えようとしている原発が設計されたのは70年代であり、その時代の設計と現代の設計を比べれば、古びていることは否めない。
中性子照射脆化とは
原発の劣化事象で特に問題となるのは、取り換えが難しい機器だ。例えば、原子炉格納容器、原子炉圧力容器、コンクリート構造物などが挙げられる(図1)。また、関西電力の高浜原発1・2号機や前述の東海第2原発では、原子力規制委員会から、総延長1000キロメートルを超える電気ケーブルの耐火性能が不十分と指摘された。会社側は一部は取り換え困難だとして、代わりに防火シートで包んでいる。
12年の国会審議で細野豪志環境相(当時)は、なぜ運転期間は40年なのかと問われ、機器の耐用年数とともに「(原子炉)圧力容器の中性子の照射による脆化(ぜいか)」を根拠に挙げている。まさにこの圧力容器の中性子照射脆化こそが、原発の寿命を決める非常に重要な要素となっている。
原発では鋼鉄製の圧力容器の中に核燃料が装荷(装着)されており、核分裂反応によって熱エネ…
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週刊エコノミスト
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