活用広がるAI顔認識 プライバシー配慮はこれから 柏村祐
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AI(人工知能)による顔認識技術は、犯罪捜査や行方不明者の特定を中心に利用が拡大する一方で、課題も生じている。
米国、ウクライナで政府が導入
最近、イベント会場や飲食店、公共施設などに入場する際、「AI(人工知能)顔認識」を利用して体温を計測する機会が増加している。
AI顔認識とは、AIが人間の顔を認識する生体認証技術の一つだ。以前は認識の精度は低かったが、テクノロジーの進歩により認識精度も向上し、活用が進んでいる。そのような中で、米国では政府機関が積極的にAI顔認識を採用し、活用範囲をさらに拡大させている。
米国政府機関が活用するAI顔認識の機能は、「識別」と「検証」に分類される。
識別とは、1人の顔データを特定の場所に保存されている複数の顔データと照合して、一致、またはその可能性のある人物を特定する仕組みである。識別機能は、たとえば犯罪現場の写真に写っている未知の人物に関する手がかりを探る目的などで利用される。
検証は、スマートフォンやコンピューターなどに保存されている顔データと、カメラを通じて認識される顔データを照合し、同一人物か否かを判定する本人確認の仕組みである。この機能は、スマートフォンのロック解除やパソコンのログインの本人確認に利用されている。
犯罪捜査に活用
米政府監査院(GAO)が2022年6月29日に公開したリポートでは、米国政府機関によるAI顔認識の活用事例が示されている。政府機関による活用目的は、①パソコン、スマートフォンを利用する時の認証として利用される「デジタルアクセス」、②行方不明者や犯罪被害者、捜査対象者の特定に利用される「国内法執行」、③施設や建物などへの物理的なアクセスの制御に利用される「物理的セキュリティー」、④空港での国内旅行者、米国への入国を申請する旅行者の身元を確認する「国境と輸送のセキュリティー」、⑤テロリストと疑われる人物の調査に利用される「国家安全保障と防衛」、⑥車の運転中の注意力を評価するために使用されるアイトラッキングなど「その他」──の六つに分類される(表1の拡大)。
また、同リポートでは、各政府機関がどのような目的でAI顔認識を利用しているのかが明確化されている。たとえば国防総省は国内法執行、物理的セキュリティー、国家安全保障と防衛、その他の四つの目的のために利用している。また、エネルギー省はデジタルアクセス、物理的セキュリティーの二つの目的のためにAI顔認識を利用していることが分かる。
このようにAI顔認識の活用は、国民の暮らしと社会の安心・安全につながっている。これを象徴する代表的な事例として挙げられるのが、21年1月6日に発生した米国会議事堂の暴動事件だ。
事件が起こった当初、現場で逮捕された者はほとんどいなかった。しかし、事件の数日後には、全米で暴動に参加した人が数多く特定され、逮捕されている。ほとんどは暴動時に撮影した自分の画像をSNS(交流サイト)に投稿したために身元を特定された。一方で、他人がSNSに投稿した画像や監視カメラが撮影した画像から特定された人もいた。これらの画像と名前の関連付けは、運転免許証・パスポート・軍人証などのデータベースや、一般に公開されているSNSからダウンロードされた写真と照合するAI顔認識によって行われた。
死亡兵の身元を特定
AI顔認識の活用は米国だけにとどまらない。もう一つの代表的な活用国として挙げられるのがウクライナだ。
22年2月24日にロシアがウクライナに侵攻を開始してから約11カ月が経過し、いまだその戦況の行方は混沌(こんとん)とした状況が続…
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週刊エコノミスト
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