国際・政治エコノミストリポート

バイデン大統領の「50歳過ぎても返せない学生ローン」を帳消しにする政策が波紋 中岡望

1人当たり最大2万㌦に上る学生ローン債務免除措置について説明するバイデン大統領(左)とミゲル・カルドナ教育長官(2022年8月) Bloomberg
1人当たり最大2万㌦に上る学生ローン債務免除措置について説明するバイデン大統領(左)とミゲル・カルドナ教育長官(2022年8月) Bloomberg

 米国では公立大学でも学費などで年間620万円かかる。学生ローンを借りてまで大学に進学するのは、得られる仕事で学歴による格差があるためだ。

学歴社会・米国の中産階級が抱える「過剰債務」

 バイデン米大統領は中間選挙を間近に控えた2022年8月24日、学生ローンの免除に関する政策を発表した。年収12万5000ドル(約1700万円)未満の世帯に対し、学生ローンの1万ドル(一部の対象者は2万ドル)の債務免除措置を講じる──という思い切った内容だった。

 声明の中でバイデン大統領は、こう強調した。「大学教育は中産階級の生活を得るためのチケットである。だが大学進学のために借りるローンは、中産階級の生活を得る機会を奪うほどの大きな負担になっている」。続けて、「学生ローンを借りた人々は月々の返済に苦慮し、債務残高が増え続けている。住宅を購入したり、退職後の生活に備えて貯蓄をしたり、事業を始めたりすることが、ますます難しくなっている」と学生ローンの債務者の窮状を説いた。

 新型コロナウイルスの感染拡大による経済状況の悪化を受け、バイデン大統領は就任早々の20年3月に学生ローン返済を22年9月末まで猶予する大統領令を出している。今回の免除措置の発表とあわせて、この猶予期間を同年12月末まで延長することも決めた。バイデン大統領は、大統領候補に名乗りを上げた当初から、中産階級こそが米国の豊かさの源泉であり、民主主義の礎であると主張してきた。学生ローン免除政策は、そうした主張の延長線上にある。

 米国の大学教育は、中産階級を育て、社会の発展の土台を築いた。戦後の米国のめざましい経済発展は、急速な大学進学率の上昇によってもたらされたともいえる。大学を卒業した若者の多くはホワイトカラーとなり、住宅をはじめ、自動車やテレビなどの耐久消費財の旺盛な需要を支えた。大学教育の大衆化を後押ししたのが、連邦政府の奨学金制度である。

授業料は40年前の3倍

 ここで奨学金の歴史を振り返ってみたい。まず、1944年に成立した「GIビル(復員軍人援護法)」によって、若い復員軍人に他のさまざまな手当てとともに、奨学金が支給された。56年に同法が廃止されるまでの間に、約220万人の復員軍人が奨学金を受給して大学に進学し、560万人が職業訓練を受ける機会を得た。

 さらに連邦議会は65年に「高等教育法」を成立させ、新たな低所得者層の学生向けの給付型奨学金制度を導入した。この制度は80年にクレイボーン・ペル上院議員の名前を取って「ペル・グラント」と呼ばれるようになり、米国の奨学金制度の支柱となった。

 このように、もともと連邦政府の奨学金は返済不要な給付型が中心であった。だが、政府の予算削減もあって次第に貸与型が増え、90年代後半にその比率が逆転する。21年度の数字を見ると、連邦政府が支給する計1305億ドルの奨学金のうち、給付型は365億ドル、貸与型は820億ドルであった。

 これ以外に、教育減税108億ドル、学内業務に従事して対価を得る「ワークスタディー」10億ドルなどがある。現在、米国では連邦政府、州政府などの公的機関による奨学金に加え、大学や各種基金、団体による奨学金も多数用意されている。奨学金全体でみると、ペル・グラントの支給額は15%に過ぎない。

 米国の大学の授業料は高い。大学の業界団体カレッジボードの調査によると、4年制の公立大学の入学者(州外の居住者の子どもの場合)の授業料、寮費、教材費などを含めた年間平均支払総額は、22年は4万550ドル(約620万円)だった。4年制の私立大学では5万343ドル(約7…

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