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国税が富裕層へ向ける厳しい目 相続税調査の標的は配偶者の「名義預金」 宮口貴志

税務署が狙っている……
税務署が狙っている……

 国税庁の最新のデータでは、富裕層の申告漏れ所得金額や1件当たりの追徴税額が過去最高となった。海外資産の税務調査にも手応えを感じているようだ。

富裕層の申告漏れ所得額が過去最高に

 新型コロナウイルス禍による行動制限などの規制解除を受け、税務調査の実地件数が戻りつつある。国税当局の事務年度が始まった2022年7月以降、本格化している。

 税務調査の中でも、当局が重視する調査の一つが相続税調査だ。相続税調査は、納税者の協力のもと実施される任意調査で、調査官は、国税通則法の質問検査権に基づいて調査する。任意ではあるが、質問検査権が行使されると、納税者は税務職員の求めに応じる必要がある。

 この質問検査権は、調査対象者だけに行使されるため、例えば、相続人が複数いる場合でも特定の相続人をピンポイントで調査することができる。最近は、コロナ禍の密を避けるためなのか、調査も極力少人数が好まれる。

 そうした事情もあり、特定の相続人を対象にした調査が行われることもある。相続税調査を数多く担当した経験のある税理士によると、「相続人が複数いる場合でも、高齢の妻のみをターゲットにした調査が行われることがある」という。相続人には、息子や娘などの家族もいるが、家族を調査に同席させないそうだ。

 そもそも相続税は、亡くなった人(被相続人)の財産を配偶者や子どもなどが相続する時に発生するもので、相続税調査ともなると、基本的には一定以上の相続財産を引き継ぐ富裕層が対象となる。最近は「老々相続」が増加していることから、多額の財産を引き継ぐ高齢の配偶者をターゲットにした相続税調査も増えているのが特徴だ。

“へそくり”に要注意

 一般的に相続税調査は、申告後1年以上たってから実施され、1~2日で終了することが多い。流れとしては、2~3人の調査官が午前9時以降に相続人宅を訪問。午前中は、相続人から被相続人についての聞き取りが行われる。その後、昼食をはさんで午後からは預金通帳などから相続財産の確認作業を行い、申告された内容に誤りがないかなどを調べる。1日で足りなければ、次の日も聞き取りなどを行う。

 相続税調査に立ち会った知り合いの税理士によると、関東地方のある税務署による21年の調査では、相続人には息子もいたが、高齢の被相続人の妻だけに質問検査権を行使して調査が行われた。80歳を超える母を気遣った息子が同席を求めたが、質問検査権は妻にしたもので、顧問税理士も立ち会っていることから、同席を認めなかったという。

 調査官が相続税調査で必ず目を付けるのが「名義預金」だ。調査官は、実地調査に入る前から、預貯金の取引状況を各金融機関へ照会し、細かく調べている。名義預金とは、預金の原資は被相続人でありながら、他人名義の口座で管理している預金のこと。例えば、子や孫の名前で銀行口座を設け、そこに被相続人のお金の一部を預金していく。

 例えば、相続人の妻が生活費をやり繰りして、被相続人の生前からコツコツと自分名義の預金通帳にためているようなものも指す。つまり“へそくり”だ。へそくりも常識的に見て、被相続人の夫が稼いだお金をためたものと判断されたら、相続財産に含めなくてはいけない。そのため調査官は、妻の預金通帳に強い関心を持ち、預金通帳の中身を確認したいと思っている。

 調査官は、①誰がその財産を管理・運用・支配しているか、②利息や配当金などの法定果実を誰が受け取っているのか、③その財産の設定・取得の原資は誰が負担しているのか──などのポイントから、名義預金であるかどうかを総合的に判断している。

 前述の関東地方の相続税調査でも、…

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