経済・企業エコノミストリポート

正念場を迎えた楽天モバイル 「0円」廃止で解約加速 佐野正弘/編集部

楽天グループの三木谷浩史会長兼社長。ピンチを乗り越えられるか(2019年、都内) Bloomberg
楽天グループの三木谷浩史会長兼社長。ピンチを乗り越えられるか(2019年、都内) Bloomberg

 楽天の携帯電話サービス、楽天モバイルは巨額の赤字が続く。グループの格付けが「投機的水準」になるなど影響は深刻だ。

度々の政府支援あるもシェア伸びず

「日本の携帯市場を民主化した」──。11月11日の楽天グループの2022年度第3四半期決算(22年1~9月期)で、楽天モバイル(本社・東京都世田谷区)のタレック・アミンCEO(最高経営責任者)はそう切り出した。大手3社(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク)の寡占が続く携帯電話業界に新風をもたらすことを狙い、高止まりしていた日本の携帯料金の引き下げに寄与した点を強調した。

 通信ネットワークをソフトウエアと汎用(はんよう)のサーバーで動作させる「仮想化技術」を全面採用することで低コストのインフラを構築し、他社より低価格のサービスを提供できることを「売り」にした。データ通信量を低く抑えることで、月額で「0円」になる料金プランも話題を呼んだ。

 しかし、収支状況は図1の通りだ。赤字の理由の一つはインフラ投資にある。携帯電話事業をゼロから立ち上げた楽天モバイルはネットワーク整備で苦戦を強いられた。自社エリア外をKDDIとのローミング(他社通信網への乗り入れ)で賄う必要がありKDDIへ支払う費用が拡大。そのローミング費用を抑えるため、基地局整備を当初予定より4年前倒ししたことで投資コストが一層かさむ結果となり、大幅な赤字が続いているのだ。

甘かった参入見込み

 回線契約の獲得でも苦戦が続く。「0円」の料金プランを22年7月に廃止したことが少なからず影響し、同年9月末の契約数(自社回線サービス契約のみ)は455万件と、半年前から36万回線も減らした。楽天モバイルの苦戦は、楽天グループ全体の経営にも大きな影響を与えている。楽天グループの22年度第3四半期決算を見ると営業損益は2870億円の赤字で、前年度と比べ赤字幅は倍増。好調なeコマースや金融事業の利益を楽天モバイルが食いつぶす構図が続いている。

 なぜここまで苦戦しているのか。参入当初の見込みの甘さが現在にまで影響していると言わざるを得ない。楽天グループの三木谷浩史会長兼社長は携帯電話事業への参入を打ち出した当時、調達した6000億円で全国のネットワーク整備ができるとした。だが21年には通信品質向上のため基地局を増やすとして、さらに2000億円前後の追加投資をするに至っている。

 広い範囲をカバーしやすく携帯電話事業に必要とされる電波、いわゆる「プラチナバンド」に関しても、楽天モバイルは20年初頭、同社が免許保有する周波数で「十分つながる」としていた。ところが、20年末ごろからプラチナバンドが必要と訴えるようになった。参入当初からプラチナバンドの重要性を声高に訴えていたソフトバンクとの違いが際立つ。

 見込みの甘さが顧客の信頼を失うことにもつながっている。象徴的な事例が先述した月額0円で利用できるプランの廃止だ。

 楽天モバイルは本格サービスを開始した20年4月当時、月額2980円(税抜き)で自社エリアでのデータ通信が使い放題になるプランを提供開始。当時、先行3社によるデータ大容量プランや無制限プランが7000円台で、楽天は安さを前面に打ち出し対抗する構えだった。ただ、肝心の自社エリアが整備の遅れにより非常に狭かった。そこで月額無料で1年間利用できるキャンペーンを実施して契約数を集め、その間にネットワーク整備を進めて他社より安い料金で顧客をつなぎ留める作戦に出た。

 ところが、キャンペーン終了が近づくタイミングで、携帯電話料金引き下げに非常に熱心な菅義偉氏が首相に就任。政治主導で他の3社が相次いで低価格の料金プランを投入したことから楽天モバイルの料金面での優位性が失われ、無料キャンペーン終了後に顧客大量流出の懸念が出てきた。このため、顧客をつなぎ留めるため、「期間限定の無料」…

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