経済・企業

日本のインフレの主因は円安にあらず 過去30年のデータで確認 吉田裕司

 日本のインフレには、円安に比べ原油などエネルギー価格の上昇や海外のインフレのほうが影響が大きい。

30%の円安でも消費者物価上昇率は0.6%程度

 インフレーション(物価上昇)が世界経済にとって重要な問題となっている。日本でも2022年10月末までに急進した円安が日本にインフレをもたらすのではと騒がれていた。インフレは日本経済にとって重要な懸念材料ではあるが、実際のところは、円安がインフレに与える影響はそれほど心配する必要はないと、筆者らの過去30年の分析研究から導かれている。

 国際通貨基金(IMF)が22年10月に公表した世界経済見通しでは、先進国の22年のインフレ率は7.2%と予測された。20年が0.7%、21年が3.1%だったことを考えると、非常に高い水準だ。ただし、金融引き締めの結果、23年には沈静化に向かい、インフレ率は4.4%にとどまるとされる。また、日本のインフレ率は、22年は2.0%、23年には1.4%にとどまると予測されている。

 日本のインフレを考える際に重要な要因は四つだ。一つ目の要因は、22年2月のロシアのウクライナ侵攻を契機とした原油・天然ガス価格の高騰だ。もう一つの要因は、小麦やトウモロコシといった食料品価格の高騰である。これら二つは、日本特有の問題ではなく、世界各国のインフレ圧力となっており、特に欧州ではこれらの要因それぞれが各国のインフレに3%以上の圧力を与えている。

 日本にとって特有の問題は、前述の二つの世界インフレ要因により、すでに多くの国がインフレに苦しんでいることだ。日本でインフレがさほど進行していなくても、日本以外の国々がインフレを経験していれば、これらの国からの製品の輸入やサービスの利用により、“インフレを輸入する”ことにつながるからである。諸外国のインフレからの日本国内への波及が三つ目の要因となる。

 そして四つ目の要因が、22年10月末に一時1ドル=151円まで進んだ円安によるインフレ効果だ。ウクライナ侵攻のあった2月24日の1ドル=115.52円を基準とすると、一時的とはいえ約30%、円安が進んだことになる。円建ての輸入品価格にすべて反映される場合は、輸入品価格の30%の上昇と捉えることができる。ただし、この四つ目については、さほど心配する必要がないと考えられる。

国内への波及効果薄く

 筆者は、明治学院大学の佐々木百合氏と大同商会の大坪ピョートル寛彰氏と共同で、為替レート▽輸入価格▽企業間国内価格▽消費者物価指数(CPI)──の四つの価格間の関係を「時変的パラメーターVAR」という手法で分析し、研究結果を22年、国際学術誌に公表した。VAR分析はマクロ経済学の実証研究でよく用いられる標準的な分析手法で、複数の経済変数が時間とともに相互に影響を与え合う関係を数値化できる。

 筆者らはこの研究で、為替レートが1%円安になっ…

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週刊エコノミスト

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