ゼロゼロ融資で潤った信金も返済開始で迎える正念場 杉山敏啓
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信用金庫は地銀に比べ、経費削減や業務粗利益の増強など経営効率を高める取り組みは遅れている。
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相互扶助が目的の協同組織金融機関である信用金庫は、営業地域の会員の金融面でのサポートが目的の非営利法人だ。金融機関は損失が出た際、まずは毎年稼ぐ収益で損失をカバーし、足りなければ自己資本が緩衝材の役割を果たす。収益は内部留保として自己資本を増加させる元手でもある。非営利でも経営健全性を維持する上で“稼ぐ力”が重要だ。
信金業界の財務状況を振り返ると、収益力を示すROA(総資産利益率)と、ストレス耐久力を示す自己資本比率は、両指標とも2019年度までは5年度連続で低下が続いていた。稼ぐ力が弱り、内部留保の蓄積も低調だったためストレス耐久力も低下していた。だが20、21年度と2年度連続で両指標とも上昇した。ROAの上昇には増益が寄与し、自己資本比率の上昇には貸し倒れの可能性がある資産(分母)を上回る自己資本(分子)の成長率が寄与した。
業界全体では、20、21年度の2年度合計で計5064億円の当期純利益を稼ぎ、4715億円の自己資本の純増に寄与した。株式会社形態の銀行と違い、稼いだ利益が株主還元のために大量に社外に出るようなことはなく、内部に自己資本としてとどまるのは協同組織形態をとる信金の強みといえる。だが業界全体では改善しても、個別にみれば様相は異なる。まずは個々の信金の経営体力を両指標のプロット図で分析した(図1)。
図右上は、収益力も耐久力も業界平均を超える実力をもつ信金だ。高知(高知県)は有価証券運用業務に定評がある。観音寺(香川県)は堅実経営による安定的な財務基盤で知られる。図左下は、収益力も耐久力も業界平均を下回る。栃木(栃木県)と湘南(神奈川県)は自己資本比率が5%台と低い。国内基準の規制比率4%を超えており規制上の問題はないが、ストレス耐久力は物足りない。アルプス中央(長野県)は稼いだ業務粗利益の9割以上を経費に費やしており利益が薄い。
高コスト体質脱せず
金融機関が内部留保を蓄積するには、経費を大きく上回る業務粗利益(一般企業でいう売上総利益)を得て、利益を手元に残さなければならない。粗利経費率(オーバーヘッドレシオ、OHR)は、このバランスをみる際の重要な経営指標だ。数値が低いほど経費効率性に優れる。信金業界のOHRは17年度ごろまでは上昇、すなわち悪化の一途をたどってきたが、18年度以降は低下、すなわち改善に転じて推移してきた。
OHR改善の手段は経費削減、業務粗利益増加の2通りだ。改善要因をみると、経費削減が続いてきた上、21年度には収益増強が加わり、経費と業務粗利益の両面がバランスよく寄与する好ましい姿に転じた。ただし全体でOHRが74%という足元の水準は地銀業界の同68%と比べ高く、高コスト体質から脱したとまではいえない。
業務粗利益と経費の変化を深掘りするとより深層がみえる。業務粗利益の増減率(18→21年度)は、業界全体で2.6%という増収で、増収信金が52%と過半であった。16→18年度はマイナス8.4%という減収で、減収信金も87%と大半を占めていた。なぜ増えたのか。地方創生の取り組みを強化して、地域事業者への本業支援に注力し、その結果、信金の利益も増えたのなら好ましいことだ。
増収の背景として見逃せないのが、20年から深刻化した新型コロナウイルス感染症の影響で売上高が減少した事業者を支援するために、政府が緊急導入した実質無利子・無担保融資制度(いわゆるゼロゼロ融資)からの特需だ。民間でのゼロゼロ融資は同年5月から21年3月まで大規模に行われた。融資には公的な信用保証が付くため金融機関側は貸し倒れリスクを負わない。最初の3年間は都道府県が金融機関側に利子補給し、事業者側の利子負担は実質ない。
ゼロゼロ融資の急速な伸びで、民間金融機関の信用保証付き融資残高は、コロナ禍以前の約20兆円から約42兆円へと倍増した。中小企業庁の統計によると、増えた22兆円のうち4割超を信金が担ったとみ…
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週刊エコノミスト
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