投資・運用

激論NISA「損?得?」株式評論家・山本伸vs.経済ジャーナリスト・荻原博子

 現行制度のNISAと2024年1月から大きく変わる新NISAはどんな人に向くのか。(構成=谷道健太・編集部)

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山本「使ったほうが得なのは明らか」

山本伸 2024年1月から始まる新NISAの生涯投資上限額は1800万円と大きい。現行制度のNISAの場合、生涯投資上限額は株式や投資信託に投資する「一般NISA」が600万円、投信を積み立て投資する「つみたてNISA」が800万円で両者は併用できない。だから新NISAはかなり大幅な拡充となる。新NISAが始まるまで待たず、23年中に現行制度のNISAを使って投資すれば、1800万円と別に非課税投資できるわけだ。使ったほうが得なのは明らかだ。

荻原「値下がりしたら損が膨らむ」

荻原博子 私はそう思わない。正直言って、今のNISAがいい制度とは思わないからだ。私が一番の問題点だと思うのは、今の一般NISAを利用して投資し、値下がりしたら損失が膨らむことだ。例えば、100万円の株を買ったら値下がりしてしまい、非課税期間が終わる5年後に50万円に下がったとしよう。その後、ようやく100万円に戻したので売った場合、もうけはないのに税金が約10万円かかってしまう(非課税期間が終わった時の50万円と売却時の100万円の差である50万円に約20%の税がかかる)。「100万円で買った株がやっと100万円に戻ってよかった」と思ったら、約10万円もの税金を取られるわけだ。多くの人はこんな仕組みだとは全然理解できていないと思う。NISAについて、「もうかったら得です」という説明ばかりなのは問題だ。

 また、通常の投資とは違い、納税時に損失と利益を相殺する「損益通算」や「繰越控除」ができない点も欠点だ。要するに、今のNISAは値下がりすると損失が膨らむ仕組みであり、全然勧められない。

山本「一般NISAを今年使うなら5年後に“化ける”株」

山本 たしかにそれらの点は通常の投資より不利だ。だから23年中に今の一般NISAを利用するなら、5年後に「化ける」というか、大きく値上がりしている可能性が高いと思う株を選ぶことが肝心だろう。東証プライム市場かスタンダード市場に上場し、連続して利益や配当金を増やしている銘柄がいい。基本的には国内市場を相手にする企業は先行きに限界があるので、世界を舞台に打って出ている自転車のシマノや電動工具のマキタのような銘柄がいいと思う。

 一方、「化ける」銘柄と聞くと、「AI(人工知能)やバイオといった先端技術を使うビジネスをする東証グロース市場上場のベンチャー企業がいい」と考える人もいるだろう。しかし、そのような銘柄は株価が10分の1に下がることも珍しくない。振れ幅が激しすぎて勧められない。

荻原 そういう株は余裕資金で投資するならいいが、家計の足しにするとか将来の資産形成に役立てるとかいう目的には合わない。私が基本的に株式投資を勧めない理由の一つは、株価の先行きを見通すのはとても難しいからだ。1年前、ロシアがウクライナに全面戦争を仕掛けると予想できた人は少ない。同様に3年前に「未知の感染症が世界に広がって大々的なパニックが数年間続く」、10年前に「ドナルド・トランプ氏が米大統領に就任する」と主張した人はほとんどいなかった。十数年前だったら東芝は「有望銘柄」の代表格だったし、東京電力(現・東京電力ホールディングス)は高配当が得られる優良銘柄とみられていた。普通の人は株式投資をしてもそう簡単にはもうけられない。

 もう一つおかしいと思うのは、現行制度のつみたてNISAだ(新NISAの「つみたて投資枠」も同じ)。いわゆる「ドルコスト平均法」にのっとった投資を優遇する仕組みになっている。「毎月同じ金額を投じて投信を買うと結果的に平均購入額が抑えられる」のがメリットとされるが、価格が高い時でも買わないといけない仕組みはおかしい。金融商品は価格が安い時に買って高い時に売るのが鉄則のはずだ。

山本 私はドルコスト平均法に基づいて有望な個別株を選んで長期投資することにメリットがあると思う。たしかに日経平均株価はバブル時代の1989年末、3万8915円に達した後、今もその水準を回復していない。しかし、個別株を見れば、トヨタ自動車や総合商社は当時の10倍以上もの利益を計上しており、株価も上がっている。そのような株をコツコツと買った人は、大きくもうけられた。新NISAは非課税期間の縛りがなくなるから、そのような有望銘柄を選んで長期投資するといいだろう。

荻原「新NISAは多少まし」

荻原 現行制度の一般NISAは年間投資枠が120万円と少なく、効率的な投資がしにくい。総投資額が500万円ぐらいあれば、保有株が値下がりしたら買い増す「ナンピン買い」という投資法が使える。そうすることで平均単価を…

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週刊エコノミスト

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