国際・政治

「カタールゲート」に揺れるEUの人権尊重理念 田中理

世界を熱狂させたサッカーW杯カタール大会だったが……(2022年11月20日、カタール・アルベイト競技場)
世界を熱狂させたサッカーW杯カタール大会だったが……(2022年11月20日、カタール・アルベイト競技場)

 アルゼンチンの劇的な優勝で幕を閉じたサッカーW杯カタール大会。舞台裏ではEUを揺るがす一大スキャンダルが起きていた。

ベルギー警察が欧州議会の副議長と人権委元議長ら逮捕

 欧州連合(EU)の共同立法機関である欧州議会が、中東の産油国カタールを巻き込んだ贈収賄スキャンダル(カタールゲート)に揺れている。ベルギー警察は昨年12月、犯罪組織に関与し、資金洗浄(マネーロンダリング)や贈収賄の疑いがあるとして、ギリシャ出身のエバ・カイリ欧州議会議員、イタリア出身のピエール・アントニオ・パンツェリ元欧州議会議員、パンツェリ氏の議会スタッフとして働いていたカイリ氏のパートナー、カイリ氏の父親の4人を逮捕し、自宅や滞在先のホテルなどから総額150万ユーロ余り(約2.1億円)の紙幣を押収した。

権限拡大する欧州議会

 ベルギーの有力紙『ル・ソワール』によれば、カタール政府はEUの立法過程に関与するカイリ議員に金銭や物品を提供し、自国に有利な決定が行われるように働きかけた疑いがある。カイリ議員は昨年1月に欧州議会に14人いる副議長の1人に選出され、パンツェリ元議員は議会の人権委員会の議長を務めていた。疑惑の発覚を受け、欧州議会はカイリ氏を副議長から解任した。カイリ氏、パンツェリ氏、カタール政府はいずれも容疑を否認している。

 EUの諸機関の役割や立法過程になじみのない読者のために、疑惑の舞台となった欧州議会について説明しておこう。

 加盟国が主権の一部を制限し、さまざまな分野で共通政策を採用するEUには、加盟国の関係閣僚で構成される閣僚理事会と、直接選挙で選ばれた市民の代表で構成される欧州議会の二つの立法機関が存在する。かつては閣僚理事会が唯一の立法機関で、加盟国議会の代表で構成される欧州議会は法的拘束力のない諮問機関に過ぎなかった。

 だが、EUの政策領域の拡大に伴い、それを民主的にコントロールする欧州議会の権限の弱さが問題視されるようになった(民主主義の赤字)。そこで、1979年に議員の直接選挙制が、93年には閣僚理事会と対等な立場で政策を決定する共同立法手続きが開始され、欧州議会の権限は大幅に強化された。

 現在では、政策の立案と執行を担う欧州委員会が提出したEUの法令や規則案は、閣僚理事会と欧州議会の双方に送られ、別々に審議される。欧州議会は閣僚理事会の立場を参考にするが、必要に応じて法案の…

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