話が早い外資の賃上げ効果 TSMCの熊本進出で人材争奪戦が始まった 永浜利広
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外資系企業の進出により、労働需給が逼迫することが賃上げのきっかけとなっている。
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ファーストリテイリングが、年収で最大40%の範囲で国内従業員の報酬改定を実施し、国内人件費を15%増加させることを発表したことは衝撃的だった。
基本的に賃上げは、①企業業績、②労働需給、③インフレ率、の三つの要素から決まるとされており、さらに、足元の状況では国内のマクロ環境が整わない限り、なかなか大幅な賃上げの実現は難しいとされてきた。しかし、今回の大幅賃上げの背景には、海外に比べて報酬水準が低位にとどまっており、世界水準での競争力と成長力を強化するためとのことである。
そもそも、日本では労働需給がある程度逼迫(ひっぱく)しても、従来の日本的雇用慣行であるメンバーシップ型雇用の割合が高いことから、労働市場の流動性が低く、海外のように賃金が上がりにくいということが指摘されてきた。しかし、今回のケースに基づけば、グローバルな競争にさらされる企業では、外圧という要素も賃上げを左右する存在になってきている。
初任給は相場より4割増
外圧による賃上げは、世界最大手の半導体製造受託メーカー台湾TSMC進出でにぎわう熊本周辺でも起きている。というのも、TSMC熊本工場が採用する2023年春の大卒初任給は28万円と熊本県の相場よりも4割程度高く、中途採用の年収も厚遇されることが打ち出されたためである。
こうした動きにより、熊本県内はもとより鹿児島などの近隣県でも人材の争奪戦が激化しており、マクロ環境の変化以上の賃上げを余儀なくされているとのことである。また、教育現場でも熊本大学での半導体人材育成学科の新設や、九州内高専での半導体教育の拡充が進んでいる。
そしてTSMCの新工場では約1700人が働く予定となっていることから、近隣では住居や商業施設、教育施設が足りないとのことで、直接的な賃上げ圧力のみならず、元来賃上げに最も重要な要素とされてきたマクロ環境にも好影響が及んでいる。そもそも、県内総生産額が6兆円台の熊本県に、TSMC関連だけで1兆円規模の投資が入るため、劇的にマ…
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週刊エコノミスト
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