経済・企業

働き方改革は企業淘汰も狙い? 中小企業で増える人手不足倒産 向井蘭

建設や運輸業では人手不足から企業の淘汰が進みそうだ(新型コロナのワクチン接種券を運ぶ運送業者)
建設や運輸業では人手不足から企業の淘汰が進みそうだ(新型コロナのワクチン接種券を運ぶ運送業者)

 経営体力や経営者の意識が低い中小企業では働き方改革に対応できず、人手不足から淘汰が進む。

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 働き方改革は大企業と優良な中小企業では進み、労働時間はかなり減少した。図1は日本経済団体連合会(経団連)会員企業を中心にした調査であるが、会社規模にかかわらず労働時間がコロナ禍前においても順調に減少していたことが分かる。働き方改革の影響を受けて取り組んだ成果によるものと思われる。

 特に従業員数5000人以上の大企業においてはもともと労働時間が短かったものがさらに短くなっている。会社の規模が大きければさまざまな施策により労働時間削減の取り組みを行いやすいものと思われる。

 一方で、中小企業は、体力や経営者の意識によって対応が分かれる。データはないものの、筆者の実感では、一般の中小企業では企業体力や収益力、経営者の意識によって対応が分かれ、働き方改革に取り組まない・取り組むことができない企業も目立ち、長時間労働により何とか企業を存続させている事例も少なくない。

「同一賃金」の浸透はまだ

 働き方改革のもう一つの柱であるいわゆる日本版「同一労働同一賃金」については、大企業を中心として取り組みが進められたものの、制度全体を変更するというよりは、非正規雇用の手当や賞与などを増額するなどの取り組みが多い。賃上げ効果は見えにくく、抜本的に制度を変えたものとはいいがたい。

 また、採用では、最低賃金の動向や時給相場が問題になり、同一労働同一賃金により時給が引き上がったかというとそうとは限らないのが実態である。

 なお、今後は定年後再雇用がさまざまな形で問題になると思われる。正社員制度とは法的に別ではあるものの、実際は定年前の仕事を引き続き行っているにもかかわらず、待遇が大幅に引き下げられている場合が多い。今のところ、紛争になる事例は少ないが、今後、来たるべき年金支給年齢の引き上げとともに現在の定年後再雇用制度が限界を迎える可能性が高い。定年後再雇用制度は正社員制度の合わせ鏡のようなものであり、定年後再雇用とともに正社員制度も変化しなければならなくなると思われる。

 実はあまり報道されていないが、コロナ禍前まではいわゆる正社員の労働者数は2015年前後で底を打ち、その後は上昇し続けている。非正規雇用数もコロナ禍前までは増加していたが、実は正社員数も増加している(図2)。

 原因はさまざまあると思われるが、人手不足のため、フルタイム雇用の場合は正社員待遇でないとなかなか採用することができず、正社員採用を増やさざるをえないためではないかと思われる。フルタイム雇用については…

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