経済・企業

2024年に終わる時間外労働の罰則猶予 建設業は送検リスクを避けられるのか 森井博子

時間管理になじみにくい建設業では、労働時間の上限規制猶予終了は大きな影響が予想される
時間管理になじみにくい建設業では、労働時間の上限規制猶予終了は大きな影響が予想される

 労働時間の上限規制の猶予期間が終了する2024年まで1年に迫った。特に建設業は厳しい対応を迫られている。

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「働き方改革」により労働基準法が2018年に改正されて、罰則付きの時間外労働の上限規制が設けられた(労基法36条6項)。これは、戦後70年ぶりの大改革といわれている。今まで時間外労働の上限については大臣告示に基づく行政指導はあったものの法律による規制はなく、この大臣告示に違反しても処罰規定はなかったからである。それが、上限規制が法律で定められ、それに、違反した場合の罰則(同法119条)が初めてついたものである。

 この改正法は19年に施行されたが、その時点ではただちに適用にはならずに、適用が猶予されている事業・業務がある。建設事業(以下「建設業」)・自動車運転の業務(以下「運送業」)・医師などである。施行当時、それぞれただちに適用するのは困難と判断され5年の猶予が与えられた。

 24年4月には、この5年が経過し、改正法が適用になることで、建設業や運送業で、「2024年問題」とされ、社会的にも注目されている。そこで両者を比較しながら猶予が切れるとどのようになるかを見ていく。

労働時間管理で明暗

 法の改正内容を図に示す。時間外労働の上限は原則として月45時間・年360時間となり、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることができなくなる。このような事情があっても、時間外労働と休日労働の合計について、「月100時間未満・2~6カ月平均80時間以内」とする規制などが適用になる。

 建設業と運送業について、猶予期間経過後に時間外上限規制の適用がどのように適用されることになるか、表にまとめてみた。ここからすると、36条6項の時間外労働の上限規制が原則適用されるのは、建設業だと分かる。猶予が切れると、建設業は36条6項違反の場合は絶えず送検されるリスクを負うことになる。

 建設業と運送業の2024年問題として、人出不足や高齢化、賃金の低さなどが挙げられているが、この2業種に共通する深刻な問題は、長時間労働とそれが原因の過労死などの労災補償請求件数・支給件数の多さである。猶予が切れるか否かにかかわらず、以前より向き合わなければならない問題で、そのための「働き方改革」であったはずである。

 一方、2業種の違いは、労働時間管理で大いに出てくる。労働時間の把握は、建設業については、以前より、天候に左右されることから、そもそも時間管理になじみにくいという意識があった。労働基準監督署の監督指導も墜落などの死亡災害となる災害が多いことから、安全管理についての監督…

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