経済・企業

賃上げも働き方改革も根は同じ 目指すは脱“正社員中心主義” 水町勇一郎

同一労働同一賃金の裁判はまだ一進一退の状況にある
同一労働同一賃金の裁判はまだ一進一退の状況にある

 賃上げの問題は働き方改革と表裏一体である。これまでの正社員中心ではなく、多様な働き方で生産性を高めることが求められている。

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 現在、グローバルインフレが進む中で、賃上げが叫ばれているが、適切に価格転嫁をしつつ、生産性を上げなければいけない。賃上げの議論で、日本の労働分配率や労働生産性の低さが指摘されている。失われた20年の中で、日本は労働分配率と労働生産性が低いままで、諸外国に差をつけられている。これは「正社員中心主義」が大きな原因の一つになっている。

「正社員主義」の弊害

 諸外国と比べて、日本は正社員と非正規社員の待遇の格差が非常に大きい。そもそも働き方改革の目的は、正社員中心主義を変え、その格差をなくすことにある。

「日本的雇用システム」では企業が正社員を20代前半で雇って、60歳まで丸抱えする。丸抱えされるなかで、正社員の賃金や処遇が徐々に上がっていき、50代で頭打ちになり、60代で下げるかどうかが問題になるが、これは企業の中の目線で進められる。しかし、社会の変化は「企業の外」で起きている。現在、米国のGAFAMのような新興企業はどんどん生産性を上げて成長しているのに対して、30〜40年間社員を丸抱えして、企業の中の人材を大切にする日本の企業は、外部環境の変化に柔軟に対応できていない。正社員中心主義の日本企業は、長期雇用で、企業の中長期的な安定を重視する中で、経営や人材育成の方向性を大きく変えることができず、生産性が上がっていない。逆に生産性の高い新しい産業は、日本の正社員中心主義とは違うところで生まれている。日本企業の生産性を上げるためには、正社員中心主義から脱却することが必要だろう。

 労働分配率の低さも正社員中心主義が弊害だ。正社員は企業での勤続査定に応じて給料が上がっていきボーナスや退職金が保障されているのに対し、非正規社員は地域相場の最低賃金にリンクした時給で、契約もいつ切られるか分からない。企業は1990年代後半以降の国際競争とコスト削減圧力の中で、コストが高く雇用調整も難しい正社員を減らし、コストが低く調整がしやすい非正規社員に頼るようになった。そして安い非正規社員が増えて、賃金全体を押し下げている。

 働き方改革と賃上げは、根は同じところにある。正社員中心主義で、男性正社員でなければ働けない働き方では、日本がもうもた…

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