YCC出口戦略 操作対象を3年物に“短期化”するのが最善 愛宕伸康
屋上屋を架してきた長短金利操作が、国債市場をまひさせるなど限界を示している。これまでの異次元緩和の再検証が必要だ。
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日銀が行っている長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)は、そもそもマイナス金利政策の副作用に対応するための苦肉の策であり、10年物国債金利の目標としている「ゼロ%程度」に理論的な裏付けがあるわけではない。
2015年央の中国株急落による「チャイナショック」を契機とする原油相場急落と円高に対処するため、国債買い入れ額の拡大に限界を感じていた日銀は、16年1月にマイナス金利政策の導入に踏み切った。しかし、半年もたたないうちに超長期金利が過度に低下するという弊害が露呈したため、16年9月にYCCを導入し、10年金利をゼロ%程度に誘導することによって超長期金利がマイナスになるのを防ごうとしたのである。
ただ、10年金利を厳格にゼロ%に誘導しようとすると、国債買い入れによって金利を抑制するあまり、国債の流動性低下やイールドカーブがゆがむといった副作用が強まる。そのため、日銀は18年7月と21年3月の2度、10年金利の許容変動幅を拡大し、0.25%までの上昇を容認することとした。
ところが、21年後半からの米長期金利の急騰で、日本の10年金利にも上昇圧力がかかる。22年4月ごろからは特定の利回りを指定して国債を無制限に買い入れる「指し値オペ」によって、力ずくで0.25%に抑え込む状態が続いたため、国債の流動性が極端に低下した。10年金利のみが他の年限に比べて極端に低くなる市場のゆがみも拡大し、日銀は昨年後半にかけて3度目の変動幅拡大を実施せざるを得ない状況に追い込まれていった。
日銀が集計する「債券市場サーベイ」(昨年11月調査)を見ると、国債の流動性を示す「ビッド・アスク・スプレッドDI」が、過去に変動幅拡大に動いた時期と比べてもひどい低水準に落ち込み、日銀がいつ動いてもおかしくない状況になっていた。はたして、12月に日銀は10年金利の変動幅を「プラス・マイナス0.25%程度」から「同0.5%程度」に拡大した。
理由は過去2回と同じ「異次元緩和の『持続性』を高めるため」である。しかし、黒田東彦総裁が直前まで変動幅拡大を強く否定したため、市場は完全に虚を突かれた形となった。無論、事前に動くことが市場に悟られれば、先回り…
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週刊エコノミスト
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