値下げでシェア伸ばすテスラ 各国がアジア第2工場の誘致競う 野辺継男
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テスラがEVを値下げできたのは、技術や生産の革新など明確な戦略と実績、余力があるからで、今さらに生産能力を拡大しようとしている。
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世界最大の電気自動車(EV)メーカー、米テスラの株価が揺れている。テスラ株は昨年12月27日に109ドルまで下落し、昨年4月の高値から71%も下落した。1月6日にはさらに最安値を更新したが、その後に急回復。今年1月27日には177.9ドルを付け、この1カ月で69%も戻した。昨年の急落にはイーロン・マスクCEO(最高経営責任者)のテスラ株売却とその後の米ツイッター買収による混乱など多くの理由があるが、今回の回復の主たる要因は世界各国での大幅な値下げだ。
中国では1月6日、昨年に続きテスラ車の大幅値下げを発表し、3日間で3万件の注文を受けた。極め付きは、1月12日の米国での大幅値下げだ。車種によって最大2万1000ドルもの値下げを行った。特にモデルYは価格を1万3000ドル値下げし、5万2990ドルとした。
値下げのきっかけは、1月5日に提出された米IRS(内国歳入庁)の、EV税額控除の指針である可能性がある。これによりテスラがSUV(スポーツタイプ多目的車)として販売するモデルYのうち、2列シート5人乗りが控除対象外となった。マスク氏はそれを逆手にとったのか、今回の値下げで控除対象となり、7500ドルの控除を加えて2万500ドル安く買えることになった。市場は即座に反応し、マスク氏は「需要が供給の2倍になった」と語っている。
ドイツでも年初、EVの補助金対象となる上限価格が設けられ、一度テスラ車は対象外になったが、1月20日に大幅値下げを行い、モデル3、モデルYとも全車種が6750ユーロの補助金対象となった。ここでも値下げと補助金の両方を享受できる。なぜ、テスラにはこうした値下げが可能なのか。
ギガプレスで一体成型
テスラは昨年、計137万台のEVを生産した。規模の拡大と多拠点展開により、生産と物流の大幅なコスト削減を実現。さらに、大型鋳造機械(ギガプレス)による車体の一体成型など生産方式を革新したほか、生産時間の短縮化や量産中の部品の仕様すら変更する「ランニングチェンジ」も進めた。また、他社に先行するソフトウエアによる付加価値(価格)分の単価コストは、販売量に逆比例して下がる。
一方、他社はこれから製造を拡大する段階にあり、損益分岐点前の計画原価の段階で値下げするのは不可能だ。テスラはコスト削減の効果を、値下げによって顧客に転嫁すると同時に生産能力も拡大し、他社をさらに引き離そうとしている。
テスラは現在、…
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週刊エコノミスト
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