国際・政治

インタビュー「産油国と水素外交を進めよ」今井尚哉・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹(元安倍内閣首相補佐官兼秘書官)

 日本の外交やエネルギー政策はどうすべきか、首相補佐官として安倍政権を支え、岸田政権でも内閣官房参与に再任された今井尚哉氏に聞いた。(聞き手=荒木涼子/白鳥達哉/稲留正英・編集部)

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── ウクライナ侵攻から1年が経過した。日本はどう外交を進めるべきか。

■決定的にやってはいけないのは、外交を断つことだ。確かに、今回はどう考えても侵攻したプーチン露大統領が悪い。ウクライナに理があり、国際社会もロシアが併合した4州を絶対に認めないだろう。しかし、レオパルト2などの主力戦車を300台配備したところで、あの4州を力で押し戻すのは極めて難しい。

 このままでは、どんどん人が死ぬだけだ。日本は先の大戦を経て、もう戦争をしないと決めた。だから、どうして岸田政権は停戦に向け動かないのか、私は怒りすら感じている。

 主要7カ国(G7)広島サミットでのG7の共通メッセージで、いくらプーチンを批判しても構わない。西側の価値を守るために、制裁を一段強化してもいい。だが、その裏で、「停戦を実現するためのG7の非公式会合を持ちましょう」くらいのリードはしてほしい。トルコもイスラエルもエジプトも「どう戦争を終わらせるのか」と心配している。

── とにかく武力行使をやめて、話し合いにシフトせよ、と。

■そうだ。ここまできてしまったら、最終的な解決に四半世紀はかかる話だ。だからまずは、どう停戦に持っていくかだ。

 昨年3月29日のトルコのエルドアン大統領による調停は、本当にいいところまでいっていた。プーチン氏は調停案をのんでいた。あそこで停戦しておけば、ここまでなっていなかった。今や、米国も欧州も、国内のポピュリズムで仲介ができなくなっている。しかし、日本はまだ働き掛けができる。

経済ブロック化は絶対不可

── 振り返って、日本国内の状況をどう見るか。

■日本は私たち自身があの大戦の記憶をどんどん失っている。非常に怖いことだ。世の中が好戦的になっている気がする。安倍氏は「抑止力を上げるが、それを使わせないのが俺たちの仕事だ」というのが口癖だった。「オレだって、本当は平和が好きなんだよ」って。世間は誤解しているようだが、安倍氏は平和外交論者だった。

 私の秘書官時代、最大限に力を入れたのが15年8月14日に出した「戦後70年談話」だ。最後のくだりに四つの教訓を誓った。

 その一つが、「経済というのは絶対ブロック化してはいけない」ということだ。経済は、人々の幸福のために、全世界に行き渡らなければならない。それを分断するところが、結果、武力衝突を起こす。だから、戦後最大の秩序は自由貿易体制だ。

 もちろん、中国などの軍事力を高めるような回路線幅1ケタナノ台の最先端半導体技術などはある程度、規制が必要だ。技術を盗ませてはいけない。しかし、4G(第4世代通信網)向けの半導体を止めても意味はない。中国の人々にも生活がある。つまり自由“公正”貿易だ。いかに広い地域が同じ条件で経済活動ができるのか、その輪をどう広げるか、が日本の役割であり、安倍氏がやってきたことだ。

── 日本のエネルギー外交はどうすべきか。

■これからの日本のエネルギーは、一言で言えば「化石燃料から水素に置き換えていく」ことだ。水素エネルギーは、太陽光や風力などの再生可能エネルギーで水を分解して得る「グリーン水素」が究極的な理想だが、それは、エネルギーが余らないとできない。日本がそういう時代になるには10年はかかる。

 しばらくは、水素を海外から輸入せざるを得ない。その輸入先となるのが、産油国、ガス産出国だ。石油や天然ガスで発電した電気で水素を作る。発電時に排出される二酸化炭素(CO₂)は地中貯留(CCS)などで空気中に放出されないようにして作る「ブルー水素」を輸入する。つまり、彼らとの関係がより重要になってくる。

 世界の脱炭素の流れが変わらない中、産油国も当然苦しくなる。そこで「そちらも脱炭素が必要だよね」と、現地に日本製のガス発電プラントや水電解装置を造る。代わりに、水素を購入する約束をする。カタール、サウジ…

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