新刊市場は4年ぶり前年割れ(ただし取次仲介件数に限る) 永江朗
全国出版協会・出版科学研究所が1月25日に発表したプレスリリースによると、2022年の新刊市場(推定販売金額)は1兆6305億円。前年比2.6%減で、4年ぶりの前年割れとなった。内訳は紙の書籍・雑誌が1兆1292億円で同6.5%減。電子出版が5013億円で同7.5%増。
紙の書籍・雑誌の新刊市場は1990年代半ばをピークにおおむね減り続けているが、18年からは電子出版がそれを上回って伸びていた。しかし、昨年は伸びが鈍化し、紙と電子を合わせてもマイナス成長となってしまった。紙の新刊販売額の内訳を見ると書籍が前年比4.5%減の6497億円だったのに対して、雑誌は同9.1%減の4795億円。紙の雑誌の状況はますます悪化していることが分かる。
前年比マイナスだった原因を同研究所は3点挙げている。一つはコロナ禍による“巣ごもり需要”が終わったこと。2点目は急激なインフレ。生活必需品の値上がりが著しく、一方で賃金の伸びは低いため、書籍・雑誌の購入に振り向けるお金が減ったというのである。そして3点目として、電子出版市場がそろそろ成熟期に入ったのではないかという見方をしている。
巣ごもり需要の終わりと新刊市場の縮小について、出版界・書店界は少し真剣に考えるべきかもしれない。緊急事態宣言下で営業を続け、大きく売り上げを伸ばした小規模書店も少なくなかった。しかし、一度は惹(ひ)きつけた顧客を、かつての日常が戻る中で再び失いつつある。出版界・書店界は、書物と読書の魅力を十分に伝えきれなかったのではないか、と問うことは酷だろうか。
もっとも、昨今急激に増えている小規模で個性的な書店(独立系書店、セレクト書店などと呼ばれる)は、出版販売会社(取次)を介さずに出版社と直接取引するところも多く、そうした数字はデータに反映されていない。また、話題のシェア型書店(店舗内の本棚を個人に貸し出す書店)が販売する本も多くは古書であり、データには含まれない。出版科学研究所発表のデータは、取次を軸にした新刊市場の縮小と取次の影響力の相対的低下とも読める。
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書評 永江朗の出版業界事情 4年ぶり前年割れの新刊市場