経済・企業 東日本大震災から12年 特別リポート
原発回帰を論じる前に模索が続く福島の農業を知ろう 行友弥
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福島第1原発事故の後、被災地では農業の基盤が壊れ、復興へ向けた難題は積み重なったままだ。事故を「過去」にしてはいけない。
原発事故の傷は12年後も癒えず
原子力発電所の60年を超える運転に道が開かれるなど「原発回帰」の流れが強まっている。エネルギー価格高騰も背景だが、本当にそれでいいのか。12年前に起きた福島第1原発の事故の傷は癒えず、被災地では今も暗中模索が続いている。原発の再稼働や新増設を論じる前に、福島の現状を知ってほしい。
営農再開農地は4割
筆者は東日本大震災と福島第1原発事故以降、福島県を中心に被災地で農業の復興状況を調べてきた。原発事故と農業といえば「風評被害」が真っ先に思い浮かぶだろうが、それは被害の一部でしかない。農地や作物の放射能汚染による作付け制限や出荷停止措置は一時、全県に及んだ。12市町村に設定された避難指示区域では農業ができなくなった。
現在、避難指示区域の面積は最大時の3割程度だが、それでも東京23区の半分以上ある。解除後の地域も営農再開は十分に進んでいない。図1の通り、原発事故で営農を休止した16市町村の農地1万7659ヘクタールのうち、2022年3月末までに再開されたのは7618ヘクタールと、4割にとどまっている。
これは原子力災害の影響が、不可逆的なものであることを物語る。農地除染などの対策で生産・出荷が可能になっても、長期の避難や営農休止を契機とした農業者の激減と高齢化、地域コミュニティーの解体などで人的・社会的な基盤が壊れたのだ。
農林水産省が5年おきに実施する農林業センサス(全国一斉の全数調査)で原発事故前年(10年)と10年後を比べたものが図2だ。12市町村の基幹的農業従事者(農業を主な仕事とする人)は1万1992人から3858人へと3分の1以下に減り、70歳以上の割合が47.7%から56.1%へ上昇した。若手・中堅世代の多くが離農したためだ。
農業者だけではない。避難指示が解除された地域の居住率(住民登録されている人のうち実際に居住している人の割合)は平均3割程度で、高齢化も一気に進んだ。このため、以前は集落住民の共同活動だった農地周辺の草刈りや水路の管理(たまった土砂や落ち葉をかき出す作業)ができなくなった地域も多い。
雑草や病害虫の侵入を防ぐには、田畑だけでなく周囲の除草が重要だ。草木が茂った耕作放棄地にはイノシシやサルが潜む。住民の長期避難で人間と獣たちの力関係が逆転し、鳥獣被害が深刻化した。国の補助事業で電気柵を設置しても、雑草が伸びて電線に触れると漏電して効果が落ちる。だから草刈りが欠かせないが、それを担う住民がいない。
スマート農業に壁
国や自治体の復興事業と連動し、被災地では株式会社や農事組合法人など法人形態の生産組織が次々と設立された。少数精鋭で農業を担うためスマート農業の導入も進められ、南相馬市小高区では遠隔操作できるトラクターやコンバインを使って100ヘクタール規模の米作りをしている株式会社もある。
しかし、経営者に話を聞くと、やはり草刈りや電気柵の管理が大変だという。避難先から通って草刈りなどをしてくれていた住民(農地の地権者)も次第に来なくなった。離農した大勢の人から農地を借りているため作業現場は分散し、移動に時間がかかる。無人運転のトラクターも公道は人が乗らないと走れず、作業者の人数は減らせない。イノベーションだけでは克服できない壁がある。
復興の担い手として設立された農業法人も、役員の多くは高齢者だ。「われわれ役員にも跡継ぎはいない。自分が元気なうちは頑張るが、将来は別の組織に農地を引き受けてもらうしかない」と明かす人もいる。
背景には国の制度もある。農地整備が国庫補助事業に採択されるには、整備後の農地を実際に耕作する経営体(農家や農業法人)を決めなければならない。このため、自治体の担当者らが地元農家に法人設立を促した。役員就任をしぶしぶ引き受けた人もいる。
こうした法人や農協には、国の復興事業の一環として農業機械やハウスなどの設備が無償でリース(物件の所有者は市町村)されているケースが多い。それらは償却が完了すれば無償で譲渡されるが、設備の更新費用は自力で稼がなくてはならない。急ごしらえの農業法人に、そうした備えはできているだろうか。復興はモノやカネを注ぎ込めば終わりではなく、経営の持続可能性を高める「伴走型支援」も重要だ。
大阪市に本社を置く食品(菓子)メーカーが福島県楢葉町にサツマイモ農場を開くなど、地域外からの企業参入も少なくない。資金や技術、販路を持つ企業の参入はありがたい。しかし、復興政策に乗った企業進出には撤退のリスクもある。農業再生のシンボルとしてメディアが大きく取り上げた植物工場が、数年で操業を停止した事例もある。単なる場所貸しや話題作りに…
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週刊エコノミスト
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