緩和終了で“ゾンビ企業”は淘汰へ 長期金利が1%に上がれば日経平均は8%下落 井出真吾
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日銀の決定次第で4月にも10年国債などの利回りが急上昇する可能性がある。
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日銀の植田和男新総裁を巡って、「ハト派」「理論派」などさまざまな見方があるが過去の発言から読み取れる大きな方向は“緩和縮小”だろう。黒田東彦前総裁が10年間続けた異次元金融緩和の副作用などに配慮し、普通の緩和に向け軌道修正するとみられる。
具体的な方法は予断を許さないが、イールドカーブ・コントロール(長短金利操作、YCC)の撤廃やマイナス金利の解除に踏み切るには、日銀の最高意思決定機関、政策委員会の合意形成に時間がかかると想定される。そもそも植田新総裁が解除・撤廃すべきと考えているかどうかは不透明だ。植田日銀の一歩目として現実的なのは、長期金利の誘導目標を0%に据え置いたまま、現在プラスマイナス0.5%としている許容変動幅を一気に拡大(または撤廃)し、YCCを有名無実化することだろう。まずは長期金利を市場メカニズムに委ね副作用をやわらげることができれば、“本丸”のYCCやマイナス金利の扱いを丁寧に議論するための時間を確保できる。日銀が保有するETF(上場投資信託)については後述しよう。
米国の利上げ停止前に
植田日銀が事実上の緩和縮小に動ける時間的猶予は限られている。米連邦準備制度理事会(FRB)が数カ月以内に利上げを停止する可能性が高まったからだ。FRBが3月の連邦公開市場委員会(FOMC)で示した2023年末の政策金利見通し(上限)は5.25%だ。現在は5.00%であり、パウエルFRB議長が「年内の利下げはない」と示唆していることから逆算すると、利上げできるのは後1回(0.25%)となる。つまり利上げは5月が最後と目され、FRBの利上げ停止がより現実味を帯びてくると、為替市場では円高に傾きやすくなる。
もしFRBが利上げを停止した後に日銀が事実上の緩和縮小をすれば、急激な円高になりかねない。昨年来の輸入インフレに悩む日本にとって、円高はエネルギーや食料品の輸入価格の低下など悪いことばかりではない。
ただ、輸出企業の採算悪化や回復傾向にあるインバウンド(訪日外国人客)消費の伸び悩みといったマイナス面もある。いずれにしても「日銀が為替相場の変動率を高めた」と評されることになれば、植田日銀の船出は、さらに厳しいものになってしまう。「FRBが利上げを停止する前にせめて副作用をやわらげておきたい」と日銀が考えても不思議ではない。
5月19~21日に広島で開催する主要7カ国首脳会議までは動きづらいという見方もあるだろう。しかし、欧米で金融システム不安が高まった3月に主要国・地域が利上げを続けたのに対して、日本だけが大規模緩和を続ける理由を問われた場合、論理的に説明するほうがよほど困難だろう。
サプライズは要らない
もし日銀が“普通の緩和”に向けてかじを切れば、市場は“緩和縮小”と受け止め、長期金利上昇、円高、株価下落が想定される。問題は変更内容とタイミングだ。「日銀はYCCをいずれ撤廃する」という見方は多いものの、時期は23年後半~24年以降を想定して…
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週刊エコノミスト
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