マーケット・金融

住宅ローン金利に先高観 植田日銀が引き締めに転じれば住宅市場に大打撃 中山登志朗

 10年続いた住宅ローンの超低金利時代が終わる時、何が起きるのか。

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 政策金利を0%かマイナスに誘導する異次元金融緩和を徹底した黒田日銀の10年が終わった。植田和男新総裁が就任したことで、住宅ローン金利にどのような影響が考えられるのか。その問いに答えるには、黒田東彦前総裁時代の住宅ローン金利動向と住宅市場で起きたことを検証する必要がある。

 異次元緩和は消費が拡大するにつれてモノの価格が緩やかに上昇し、それに連動して家計所得も増えるという「拡大再生産型経済社会」を構築するための一歩だった。

 しかし、黒田氏が年率2%としたインフレ目標は、2022年以降のコストプッシュと円安による物価上昇を除けば実現しなかった。それでも日銀が16年に導入したイールドカーブ・コントロール(長短金利操作)によって、金融機関の住宅ローン金利は大きく下がり、住宅市場は安定的に拡大し、住宅価格は上昇した。日銀がバブル経済を人為的に引き起こすくらいの低金利に誘導して、市中にお金をばらまくような施策だった。

 異次元緩和はプロパー融資(信用保証協会の保証が付かない金融機関による融資)には効果がほぼなかったものの、リテール貸し出し(個人や自営業者向けの融資)、特に住宅ローンには効果が大きかった。長期金利の代表的な指標である10年物新発国債の利回りは異次元緩和が始まる1年前の12年4月には1%前後だったが、異次元緩和が始まってから1年半後には0.5%を下回るようになり、一時0%を下回った。それを受けての返済期間35年・固定金利型の住宅ローン平均金利は2%を割り込み、変動金利型も1%を下回る超低金利となった(いずれも借り入れる金融機関を給与の振込先に指定するなど、金融機関が定めた条件に合致することで、店頭金利より低い優遇金利の適用を受けた場合の金利、以下同じ)。

2000万円超値上がり

 異次元緩和によって、住宅を購入し、長期のローンを組むには絶好の環境が到来した。住宅市場は08年のリーマン・ショックに端を発した世界的な金融危機の余波でミニバブルが崩壊し、勢いを失っていたが、短期間で取り戻した。東京都では、07年以降下落していた新築マンションの平均分譲価格が13年5290万円、16年6038万円、22年7521万円と上がり続けた。

 足元では東京都心に建つ新築マンションの平均分譲価格は1億円を突破し、坪単価が850万~1000万円を超える物件もある。築年数が短い中古のタワーマンションの場合、専有面積150平方メートル程度の上層階住戸に7億円以上の値がつくことも珍しくない。価格だけを見れば「バブル」と表現しても差し支えない水準に達している。過去10年間で2000万円以上もの価格上昇は、異次元緩和による住宅ローン金利の低下がもたらしたといえるだろう。

 物件価格がこれだけ高騰…

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週刊エコノミスト

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