資源・エネルギー

自動車の脱炭素で日独注目の合成燃料 課題はコストと生産技術 土守豪

 電動化を主流とする自動車の脱炭素化の動きに、変化が起きている。脱炭素燃料として、合成燃料への注目が日本やドイツで高まっている。

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 G7(主要7カ国)気候・エネルギー・環境相会合が2023年4月15、16日に札幌市で開かれた。16日に採択された同会合の共同声明の注目点の一つが、電気自動車(EV)導入の目標設定だった。しかし、共同声明は自動車の脱炭素目標として、「2035年までにG7各国が保有する自動車から排出される二酸化炭素(CO₂)を00年比で半減する可能性に留意する」との明記にとどまり、G7の具体的なEV導入目標値を掲げなかった。EV導入について共同声明では参考情報として触れただけだ。

 英国や米国がEV導入目標を共同声明に盛り込むよう要求したが、普及が遅れている議長国の日本が難色を示して明確な目標の位置づけにはしなかったからだ。そして自動車の脱炭素化には、合成燃料やバイオ燃料を含めた技術開発の必要性を強調。EV一辺倒の従来の政策から、さまざまな手法で自動車の脱炭素化を進めることを示した。

 合成燃料はCO₂と水素を合成してつくる「人工的な原油」といわれている。自動車の脱炭素化手法として、にわかに脚光を浴びている。大型火力発電所や工場から出たCO₂を原料として利用できることから脱炭素燃料とみなされる。

 ただ、もう一つの原料である水素を化石燃料から製造する場合では、その課程で排出されるCO₂の“処分”が必要となり、非効率だ。したがって再生可能エネルギーの電力を使って水分解により水素をつくる方法が基本となる。なお再エネ由来の水素でつくった合成燃料を「e-フュエル」と呼ぶ。

業界団体が後押し

 合成燃料は、原油に比べて硫黄分や重金属分が少なく、燃焼時にもクリーンな燃料だ。化石燃料を由来とするガソリンや軽油などの液体燃料と同じくエネルギー密度が高いという特徴がある。世界の自動車脱炭素化の主流は電動化だが、輸送用大型車両や飛行機などの動力源を電力に転換するのは難しいといわれている。現在使用されているガソリンなどの液体燃料と電力では、エネルギー密度に大きな差があるからだ。たとえば、大型トラックの場合、電動化して液体燃料と同じ距離を移動するには液体燃料よりも大きな容量の蓄電池が必要となる。

 ガソリンや軽油などの化石液体燃料を合成燃料に置き換えることができれば、エネルギー密度を維持したままCO₂排出量を抑えることができる。また合成燃料の大きなメリットは、従来のレシプロエンジンなどの内燃機関や、すでに整備されている燃料供給インフラを活用できる点だ。電動化では充電設備など新たインフラを整えなければならないのに比べて、新規投資を抑えることができる。

 実際、合成燃料の実用化には、日本自動車工業会や石油連盟、全国石油商業組合など多くの業界団体が後押ししている。さらに22年10月には自民党で「カーボンニュートラルのための国産バイオ燃料・合成燃料を推進する議員連盟」を発足させた。会長にはエネルギー族議員重鎮の甘利明前幹事長が就任。同議連は合成燃料普及…

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