グリーン化急務の国内鉄鋼業 スクラップ製鉄法への転換がカギ 佐藤智彦
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鉄鋼業界は二酸化炭素(CO₂)排出量削減が急務となり、製鉄手法の転換を求められている。
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二酸化炭素(CO₂)排出量の多い鉄鋼業の「グリーン化(排出削減)」が急務となっている。国内のCO₂排出源を業種別に見ると、鉄鋼業は事業用発電に次ぐ第2位で、国内全体のCO₂排出量11億トンの約12%(1.3億トン)を占める。これは、世界全体のCO₂排出量360億トンに占める鉄鋼業の割合である約7%(24億トン)よりも高い比率である。日本のカーボンニュートラル(CO₂排出実質ゼロ、CN)を実現するために、鉄鋼業のグリーン化の重要性は高い。
鉄鋼業のCN化は、鉄鋼製品の長寿命化などによる生産量の抑制や、革新技術の導入を含めた製鉄手法の転換が必要とされており、ここでは後者について解説する。
現在の主要な製鉄法には、高炉転炉製鉄法▽直接還元製鉄法▽スクラップ製鉄法──があり、国内では粗鋼生産の7割強を高炉転炉製鉄法が占めている。
主な製鉄法の粗鋼生産時のCO₂排出量を比較すると、高炉転炉製鉄法を1とした場合、直接還元製鉄法は0.55、スクラップ製鉄法は0.15となり、高炉転炉製鉄法が他の製鉄法と比較してCO₂排出量が非常に大きいことが分かる(図2)。これは高炉転炉製鉄法において、鉄鉱石から酸素を取り除く還元を行う際に使用する石炭を原料とするコークスや、製鉄プロセス全体を通じて必要となる大量の熱源を供給するための石炭やガスなど、製造工程で多くの化石資源を用いるためである。このため、CO₂排出がより少ないスクラップ製鉄法や水素直接還元製鉄法(還元を現在主流の天然ガスではなく水素で行う方式)に転換する動きが、欧州を中心に加速している。
しかし、化石燃料から生産され、CO₂排出がゼロとみなされる「ブルー水素」製造に伴うCO₂回収・貯留技術(CCS)の実施や、再生可能エネルギーによる電力で水を分解してつくる「グリーン水素」の調達が欧州と比較して難しい日本では、水素直接還元製鉄法への転換は容易ではない。日本の鉄鋼業はさまざまな手法を組み合わせてグリーン化を段階的に進めることで、最終的なCN実現を目指している。
現実的な物質収支方式
それでは「グリーンスチール」製造にはどのような手法が求められるのか。
まず挙げられるのは「物質収支方式」だ。同方式は、対象製品の製造時に生じるCO₂削減量を集計し、その削減量を一部の製品に寄せる形で当てはめることで、低炭素化を実現するというもの。神戸製鋼所の「コベナブル・スチール」や日本製鉄の「エヌエスカーボレックス・ニュートラ…
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週刊エコノミスト
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