教養・歴史

今なお立ち返るべき場所 小川仁志

『法の哲学Ⅰ、Ⅱ』

ヘーゲル著、藤野渉・赤沢正敏訳

中公クラシックス(各1650円)

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 哲学の古典と聞いて、まず頭に浮かぶのはG.W.F.ヘーゲルの『法の哲学』だ。いや、頭どころか夢にさえ出てくるほどの本だ。なぜなら、これこそ私が人生において初めて本格的に取り組んだ哲学書であり、博士論文のテーマに選んだ古典だからである。

 今でこそ夢でうなされることはなくなったが、大学院時代は、この本の一節が夢に出てきて、さんざん悩まされたものだ。時にはドイツ語の原文も登場した。

 ではなぜそんな本をお勧めするのか? それはやはり、この本が今なお私たちが立ち返るべき人生と社会の根本問題を徹底的に探究していたからにほかならない。ヘーゲルは近代哲学の頂点に立った哲学者だといっても過言ではない。そして近代哲学が現代社会の礎になっている点に鑑みるなら、常にそれが立ち返るべき場所になるのもうなずけるだろう。

 この本の中でヘーゲルは、人が社会で生きるために必要な権利や制度をあますところなく論じている。『法の哲学』というタイトルだけからだとわかりにくいかもしれないが、原題はGrundlinien der Philosophie des Rechtsとなっていて、このRechtというドイツ語が法だけでなく権利をも意味することから、『法・権利の哲学』と訳されることもある。

 しかし、さらに重要なのは、この本が法や権利だけでなく、倫理や心構えについてもかなりの紙幅を割いて論じている点である。だからこそ『法の哲学』は法学部でも哲学科でも必読書の一つとなっているのだ。

家族→市民社会→国家

 私は、法…

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