教養・歴史

「好き」こそが原動力 伊藤千恵

『牧野富太郎自叙伝』

牧野富太郎著

講談社学術文庫(1177円)

>>特集「リベンジ読書」はこちら

 4月からスタートしたNHK連続テレビ小説「らんまん」の主人公のモデルである植物学者・牧野富太郎博士。博士の著作である『牧野富太郎自叙伝』では、裕福な酒造業を営む商家に生まれた博士が両親に先立たれ、幼い時からただ何となしに草木が好きになり、植物学の道をまい進する過程が語られる。大学教授との対立や莫大(ばくだい)な借金など波乱に満ちた人生は、それこそドラマ化されるほどドラマチックである。一方で、博士が学問と対峙(たいじ)する姿勢に着目して読むと、現代の私たちが今こそ大切にするべき生き方のヒントを見つけることができる。

 博士は土佐の佐川村(現・高岡郡佐川町)の出身で、名教館(めいこうかん)という郷校で地理・天文・物理などを学ぶ。その後、小学校制度ができ名教館は廃され小学校に通うが、すでに高度な学科を修めてきた博士はそこでの学びに飽き足らず中退。実地に植物を観察し、書籍と照らし合わせ知識を深めていく。博士が20歳ごろに書いた研究をする上での志を記した「赭鞭一撻(しゃべんいったつ)」は、「忍耐ヲ要ス」「精密ヲ要ス」をはじめとする15項目からなるが、その中の一つを紹介したい。「書ヲ家トセズシテ友トスベシ」は、本に書いてあることを信じて疑わず、本に安住するのではなく、誤りがあれば正すような対等な友とすべきであることを示し、先入観にとらわれず真実を探求する博士の姿勢が垣間見える。

実地に見て、触れる

 小学校中退という学歴の博士であるが、上京すると植物への熱心さから東京大学植物学教室への出入りを許されるよ…

残り1045文字(全文1745文字)

週刊エコノミスト

週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。

・会員限定の有料記事が読み放題
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める

通常価格 月額2,040円(税込)

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

4月16日・23日合併号

今こそ知りたい! 世界経済入門第1部 マクロ、国際政治編14 長短金利逆転でも景気堅調 「ジンクス」破る米国経済■桐山友一17 米大統領選 「二つの米国」の分断深く バイデン、トランプ氏拮抗■前嶋和弘18 貿易・投資 世界の分断とブロック化で「スローバリゼーション」進行■伊藤博敏20 金融政策 物価 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事