寺島実郎が語る「ウクライナ」「脱炭素」「米国発金融危機」
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てらしま・じつろう 1947年生まれ。73年早稲田大学大学院修了、同年三井物産入社。2002年早稲田大学大学院教授、06年三井物産常務執行役員等を経て、16年4月から日本総合研究所会長。多摩大学学長も務める。
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主要7カ国(G7)広島サミットは、世界が戦争と核の脅威の中での開催となる。主要国が果たすべき役割を深く議論しなければいけない重要な機会だ。
まず、日本の政治の置かれている状況を整理しておきたい。安倍晋三元首相の銃撃事件を契機に旧統一教会問題が浮上して以降、政治への不信というより失望感が強まった。愛国を掲げた保守政治家が、反日を意図する外国の宗教団体に太いパイプを持ち、選挙協力を受け続けてきたという事実にあぜんとしただろう。
「政治への期待逓減」が国民の間で広まっている。NHKの調査によると、3月の岸田文雄首相のウクライナ訪問を国民の約6割が評価するという。これは岸田政権にとって、支持率回復の追い風のように思える。だが、岸田政権に対する国民の目線は複雑だ。政治への期待値が低いからこそ、消極的な支持という評価につながるのだと思える。
戦後約3%だった日本の世界に占めるGDP(国内総生産)の比重は、復興・高度経済成長を通して1994年のピーク時には約18%にまで上昇したが、昨年には約4%まで低下した。明治期から第二次大戦後までの77年(1868〜1945年)、それに続く戦後期が77年(45〜2022年)であるが、この経済的埋没を踏まえ、これからの「未来圏」の77年(23〜2100年)を視界に今なすべきことを考えておきたい。
岸田首相のロシア訪問
日本の政治に今求められるのは、主体的な構想力だ。その点で二つの問題意識を伝えておきたい。
岸田首相は3月にウクライナを電撃訪問し、ゼレンスキー大統領と会談した。インドを訪問し、モディ首相に会ってからウクライナ入りしている。日本の政治に本当の構想力があれば、その後ロシアを訪れ、プーチン大統領と会談するという展開を探っただろう。G7議長国として極めていいタイミングだったと思う。
インドは、「グローバルサウス」の盟主を自任して、急速に存在感を高めている国だ。西側諸国に全面的にくみするわけでもなく、中露とも微妙な関係を続けている。そのインドと連携して、日本がロシアに対してウクライナとの即時停戦、核の先制不使用を共同提案するなど、グローバルサウスに目を配り、次の世界秩序の在り方を模索している姿を見せるべきだ。
国際連合は、第二次大戦の反省から二度と戦争を起こさないという理念の下、世界の新たな秩序を作るために発足した。ロシアは国連に加盟し、5カ国(米国、英国、フランス、中国、ロシア)で構成する安全保障理事会の常任理事国の一つ。また、クリミアを併合する14年まではG8として、主要国首脳会議にも参画していた。その後はG7となったが、そのロシアに対して、国連憲章の原点に返り、国際社会において責任ある立場に立つべきことを自覚させ、行動を求めていくことが重要だ。安倍元首相はプーチン大統領と27回も会談したが、当時の外相が岸田首相だった。その文脈からも、日本はロシアに対して取るべき行動があるはずである。何よりも、ウクライナの悲劇を終わらせる必死の問題意識を示すべきだ。
核兵器禁止条約への協力
二つ目は、サミットが広島で開催されることの意義をよく考えることだ。世界で92カ国が署名し、68カ国が批准している核兵器禁止条約に被爆国である日本が署名、批准していない事実は重い。この条約とどう向き合うかを真剣に議論する時だ。
米国の核の傘に守られているという理由で、署名・批准できないと思考停止させるのではなく、例えば、条約への部分的な参画を模索するべきだ。条約の第6条に「被害者に対する援助及び環境の修復」という条項がある。つまり、核の被害者への援助や被爆地の環境修復に協力することをうたっている。
広島、長崎はもちろん被爆地だが、世界を見渡せば、原発事故が起きたチェルノブイリや福島、核実験場となった南太平洋諸島など多くの国や地域が、援助や環境修復を必要としている。この第6条にのっとり日本が技術協力や支援に踏み込めば、日本の創造的立ち位置を示せるはずだ。
注目したいのが、英国が環太平洋パートナーシッ…
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週刊エコノミスト
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