インタビュー「古典は文化の屋台骨 翻訳者の共感で15年継続」黒沢正俊・日経BP編集者
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新訳によって古典を現在によみがえらせ、世に問う「日経BPクラシックス」。同シリーズの発案者・編集者の黒沢正俊さんに刊行の狙いを聞いた。
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──「日経BPクラシックス」の創刊は2008年4月ですね。
■古典は社会にとって大きな財産です。それが難解な翻訳で一部の研究者や勉強用にしか読まれない状況があり、また一方では絶版でそもそも読めなくなっているケースも少なくありません。そこで新たに翻訳し直し、この現代を生きている人々の生活や問題解決につながるようにして再び世に送り出したいと考えました。
──「発刊にあたって」は、「原文に忠実であろうとするあまり、心に迫るものがない無国籍の文体。過去の権威にすがり、何十年にもわたり改めることのなかった翻訳。それをわれわれは一掃しようと考える」と、非常にアグレッシブにつづられています。
■古典というと大学の先生が訳して、その刊行からかなりの歳月が経過していることが多いですね。そして学問としてやる場合、原文に忠実であろうとするあまり、いま読んでも意味がわからないことが少なくありません。現代人に理解できるようにするためには思い切った意訳を試みることも必要です。その意味で「日経BPクラシックス」では、その道の研究者ではなく、すべてプロの翻訳者に依頼しています。プロがその本と著者について学びながら、今日に生きる私たちにも理解できるように工夫して翻訳をしています。
葬儀の場で宣言
── スタート時の経緯を教えてください。
■米国の経済学者ミルトン・フリードマンの『資本主義と自由』が気になっていました。この本、米国のアマゾンを見ていると、米国でなにか事件や社会的に大きな動きがある度に、必ずランキングの上位に上がってくるんですね。1975年に出た既訳がありましたが、これが何度読んでも理解できません。調べたら版権も切れてるし、これ、新訳で出したほうがいいんじゃないかと考えました。そして私が経済書の翻訳ではナンバーワンと考えている村井章子さんにお願いしました。
最近、アダム・スミスの『国富論』が日経ビジネス人文庫になりましたが、これを訳したのが「翻訳界のドン」と形容されることもある山岡洋一さん。山岡さんが「プロの翻訳家も売れる本ばかりでなく古典の翻訳をやらないとダメだ」と古典翻訳の塾を開き、村井さんはそのメンバーの一人でした。その塾のテキストがジョン・スチュアート・ミルの『自伝』。そして山岡さんには、ミルの『自由論』を翻訳してもらいました。
── シリーズ刊行の背景には、そうした地道な努力が下地としてあったんですね。
■山岡さんは2011…
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週刊エコノミスト
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