インタビュー「邦銀の金利リスクは無視できない」吉沢亮二S&Pグローバル・レーティングス シニアディレクター
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3月に起きた米欧の銀行危機は、日本の金融機関にどんな教訓を与えたか。国際金融のプロ、S&Pグローバル・レーティングスの吉沢亮二シニアディレクターに聞いた。(聞き手=浜條元保・編集部)
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── 米中堅銀行シリコンバレー銀行(SVB)が急激な預金流出に伴い、経営破綻した。邦銀にも同じようなリスクはあるか。
■課題の一つは金利リスクだ。SVBは預金を企業への融資や個人の住宅ローンではなく、米国債などの有価証券運用に依存するビジネスモデルだった。つまり、預貸率が非常に低く預証率が高い状態だ。米国では政策金利が1年間で約5%も急上昇する中で、SVBは保有する債券に含み損を抱えていた。保有債券の含み損(資産に対する懸念)の増加が契機となり、後述する預金者間のSNS(交流サイト)の情報交換や、ネット取引化による引き出し加速により不信感が増幅され、短期間に破綻に至った。
三菱UFJフィナンシャル・グループなど大手行をはじめS&Pが格付けを付与する日本の金融機関22社(2022年3月末)の金利リスク量(対自己資本比)の加重平均値は、欧州の主要銀行67社の加重平均値(21年度末)と大きく違わない。しかし、貸し出しよりも有価証券投資を主に行う農林中央金庫、ゆうちょ銀行、信金中央金庫の3金融機関の金利リスク量(同)は極めて大きい。さらに、S&Pの格付け先ではないが、収益力の低下した中小地銀の数行の金利リスク量が自己資本対比で大きくなっていることも私は各行の公開情報から認識している。
── 有価証券運用を中心に行う3機関についてもう少し詳しく。
■S&Pでは、3社のリスクポジションの評価を「やや弱い」とするなど、各社の格付けにリスク要因をおおむね織り込み済みだ。とはいえ、この3社は、銀行勘定の金利リスクをみる各国共通の指標であるΔ(デルタ)EVE(銀行の経済価値の変化)の数値が一般の商業銀行と比べて大きく、金利感応度が高いのは事実だ。ゆうちょ銀や農林中金などの金利リスク量が自己資本対比で大きいことは、日本の金融業界全体をみるうえでの無視できないリスク要因の一つであろう。
デジタルバンクラン
── 邦銀は全般的に国内の資金需要が乏しく、恒常的に預貸率は低くなる傾向だった?
■国内に有力な貸し出しが限られ、預貸率が低く、低金利の貸し出し競争をする状況は戦前からの課題だった。また、当時の日本経済は、経済成長の活路を中国や東南アジアに見いだそうと進出した。日本が経済成長の活路を国内でなく海外に求めるこの宿痾(しゅくあ)ともいえる構図は、現在も変わっていない。バブル崩壊以降、メガバンクのみならず海外に投融資先を求める邦銀の姿勢は強まっている。唯一の例外は戦後の復興から高度成長の期間だった。国内の旺盛な資金需要に都市銀行中心に、商業銀行は貸し出しを大きく伸ばし、収益を上げた。しかし、これは一時的に宿痾が癒やされたようなもの。国内の貸し出し需要を超える余資の運用問題が根本的に解決されずに現在に至っている。
── SVBの破綻を巡っては、「デジタルバンクラン(取り付け騒動…
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週刊エコノミスト
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