国際・政治

中東諸国にしたたかな資源戦略 脱炭素でも狙うエネルギー主導権 岩間剛一

UAEの国営石油企業ADNOC(アブダビ国営石油会社)。油田掘削子会社のADNOCドリリングに続き、天然ガス子会社ADNOCガスの上場も成功させた(Bloomberg)
UAEの国営石油企業ADNOC(アブダビ国営石油会社)。油田掘削子会社のADNOCドリリングに続き、天然ガス子会社ADNOCガスの上場も成功させた(Bloomberg)

 世界は脱炭素へと大きく動くが、石油需要は今後も増加が見込まれる。中東各国は意欲的な脱炭素目標も示しながら、エネルギー供給者として主導権を握ろうとしている。

UAEでガス企業の大型上場

 UAE(アラブ首長国連邦)の国営石油企業ADNOC(アブダビ国営石油会社)の天然ガス子会社ADNOCガスが今年3月、アブダビ証券取引所に上場し、同社の株式時価総額は500億ドル(約6兆5000億円)に達するアブダビ証取での過去最大のIPO(新規株式公開)となった。UAEやサウジアラビアなどGCC(湾岸協力会議)諸国では、今後もIPOによる資金調達がさらに活発化する流れにある。

 ADNOCガスはアブダビ首長国の天然ガス処理、LNG(液化天然ガス)輸出施設を運営しており、今後のLNGプロジェクト開発を目的に資金調達を行った。原油価格が高値を維持していることもあり、ADNOCガスは25億ドルの資金調達目標に対して、オイルマネーに沸く中東の国営投資ファンドを中心に1240億ドルと50倍もの応募が殺到した。

 2019年にはサウジアラビアの国営石油企業サウジアラムコが上場し、企業価値は史上最大の2兆ドルを記録した。サウジアラムコの22年12月期純利益は1611億ドル(約20兆9000億円)と、欧米石油メジャーの雄エクソン・モービルの史上最高純利益557億ドル(22年12月期)をはるかに超えている。ADNOCは21年10月に油田掘削の子会社も上場させており、22年の純利益は8億200万ドルに達している。

 GCC諸国の22年のIPOは前年比3倍の230億ドルに増加しており、23年もさらにIPOを増やす勢いにある。世界的な脱炭素の流れのなか、①新規油田・天然ガス田の開発、②石油に依存しない産業構造の高度化、③アンモニア、水素をはじめとした脱炭素事業の発展、④観光、IT産業の活性化、⑤海外投資家による中東金融市場への資金の呼び込み──などに向けて資金調達を活発化させている。

 世界は脱炭素へと大きく動くが、今後も自動車、航空機、船舶などの輸送用燃料、石油化学原料としての石油の需要が伸びることが見込まれ(図1)、UAEやサウジアラビアなど中東産油国は積極的な油田開発計画を構想している。中東産油国の強みは、豊富な原油・天然ガス埋蔵量に加え、米国のシェールオイルなどと比較して圧倒的に安価な生産コストにある(図2)。

意欲的な生産能力増強

 また、天然ガス田を数多く抱えるが、これは炭酸ガスを注入するCCS(Carbon Dioxide Capture and Storage=炭酸ガス回収・地下貯留)を低コストで行えることを意味する。加えて、現時点において世界的に原油増産余力を豊富に持つ国は、サウジアラビア、UAEの2カ国に限られるという点でも強みを有する。そして、UAEは世界で最も低コストかつ炭酸ガス排出量の少ない原油・LNG生産者を目指している。

 UAEの計画では、原油生産量を現在の日量400万バレルから27年に25%増の日量500万バレルに引き上げ、27年までに1270億ドル(約16兆5000億円)の投資を行うこととしている。当初目標の30年から3年前倒しし、天然ガスの生産能力も3割引き上げるほか、東部フジャイラにおいてLNGプラントの建設を計画し、LNGの輸出も拡大する。

 さらに、炭酸ガスを回収して地下に貯留するCCSを低コストで実施。天然ガス液化プラントの稼働を太陽光発電をはじめとした再生可能エネルギーによる電気で行い、クリーンな石油と天然ガスの生産を行う。脱炭素の流れにもかかわらず、安価な中東産の原油・LNGへの需要は増加すると中東産油国は予測しており、各国は意欲的な原油、LNG生産の能力増強を目指している(表1)。

 UAEをはじめとした中東産油国は、意欲的な脱炭素目標を示し、エネルギー供給者としての主導権を握ろうという野心を抱いている。UAEはいち早く、30年までに温室効果ガス排出31%削減、50年のネットゼロ(温室効果ガス排出実質ゼロ)、そして主要水素市場の25%のシェア獲得を目標に掲げた。また、ADNOCは30年までに、CCSによって年間500万トンの炭酸ガス回収を目標としている。

 UAEは今年11月に開催されるCOP28(第28回国連気候変動枠組み条約締約国会議)の議長…

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週刊エコノミスト

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